あの頃が一番幸せだったのかもしれない。十郎、七郎、あやめがそばにいて、ひたすらに能を学ぶ毎日。そこにはなんの迷いもなかった。しかしまた一方で、それは能そのものが大きな曲がり角を迎えているときでもあった。大樹義満(よしみつ)が没したときのことを、弥三郎はかすかに覚えている。応永(おうえい)十五年、弥三郎はやっと物心がついたばかりではあったけれども、世の中が大きく揺らぐような空気が漂っているのを子供…
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