骸骨はおずおずと肩に右腕を回した。間近に少女の顔が迫り、しなやかな感触が腕に伝わってきた。何だかいい香りがして、頭の中で早鐘が鳴った。骸骨は目を瞑るとエイッとばかりにその肩を押し出した。「きゃっ」小さな悲鳴が上がり少女は前へつんのめった。周章てた骸骨は左手で支えようとしたのだが、宙に差し伸べられた彼女の腕の下に滑りこむ形となってしまった。腕が胸のふくらみに触れ、一瞬ドキッとした。だが何とか転倒だ…
[連載]標本室の男
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小説『標本室の男』【第38回】均埜 権兵衛
少女を抱きかかえたまま、ふらふらと藪の中へ泳ぎ出す骸骨。少女にきゅっと抱き着かれると、尻餅をついてしまい…
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小説『標本室の男』【第37回】均埜 権兵衛
骸骨は少女を信じたかった。すっかりいじけてしまった心で。人を信じるということは、疑うよりもずっと難しいことなのだということを知らないまま。
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小説『標本室の男』【第36回】均埜 権兵衛
初めて触れた人の手だった。あの時、白い杖を渡す時触れた温かくてやさしい手、その小振りな感触は確かなものだった。
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小説『標本室の男』【第35回】均埜 権兵衛
行方を晦ました骸骨。代わりに別の骸骨を置くと患者たちが勝手にクリーニングに出していたと決めつけてしまい…
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小説『標本室の男』【第34回】均埜 権兵衛
「どなた? この辺の人じゃ…」骸骨に全く動じない少女。視線が合わず、白い杖を持っていて…
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小説『標本室の男』【第33回】均埜 権兵衛
もし死体ということになれば火葬にされかねない。生きたまま焼かれる…骸骨の空想は止まらない。
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小説『標本室の男』【第32回】均埜 権兵衛
岬の突端に古びた小さな神社がある新潟県の海浜に来た骸骨。毎日ぼんやりと海を眺めながら…
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小説『標本室の男』【第31回】均埜 権兵衛
白々と哀れむような、何かを咎めるような乗客の目差し。どうしたのだろう、急にどうしたというのだろう。
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小説『標本室の男』【第30回】均埜 権兵衛
自らの姿は隠しながら、その一方で、相手には心を開いて欲しいと望んでいた。そのムシの好さに彼自身はまだ気づいていなかった。
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小説『標本室の男』【第29回】均埜 権兵衛
骸骨探しの手掛かりは少しだけ。シラミ潰しに運転手を尋ねたとして…知っていて庇うかも、何か企んで軟禁しているかも知れない
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小説『標本室の男』【第28回】均埜 権兵衛
この広い世の中には一人くらい自分を受け容れてくれる人がいるだろう。そう考えて自らを慰めた。
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小説『標本室の男』【第27回】均埜 権兵衛
東京では色々なものを見た…夕方の駅、恋人が現れた時の女性の表情。葬列で、崩折れそうな黒装束の女性たち。人間って本当に…
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小説『標本室の男』【第26回】均埜 権兵衛
「実はねえ、オレ見てたんすよ」タクシー運転手は暗がりの小道に入っていく骸骨の姿を見ていたと言うが...?
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小説『標本室の男』【第25回】均埜 権兵衛
東京での骸骨探しは難航。飲み屋で偶然耳にした、ひょっとこ踊りの話とは?
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小説『標本室の男』【第24回】均埜 権兵衛
眠らない、疲れない、腹も減らない、そして喉も渇かない。これが生きているということなのだろうか。
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小説『標本室の男』【第23回】均埜 権兵衛
骸骨は同僚の男に誘われ温泉に行くことに。考えてみればいつまでも隠し通せるものではないのだ。本当の姿を見せよう...
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小説『標本室の男』【第22回】均埜 権兵衛
一昨日から急用と称して強引に一週間の休暇をとっている伊藤医師。なんだか嫌な胸騒ぎが…
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小説『標本室の男』【第21回】均埜 権兵衛
骸骨が病院を去ってから1か月が経過。懇意にしていた医師は、無事でいてくれることを願うように......
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小説『標本室の男』【第20回】均埜 権兵衛
トラックの運転手から「俺の所へ来ないか?」とありがたいお誘い。だが、上手くことばが見つからず、やっと口に出たのは…
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小説『標本室の男』【第19回】均埜 権兵衛
「お客さんどちらまで?」「海…」どこでもいい。東京を離れたかった。タクシーは走り去り、独りぽっちになった。その瞬間-!?
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