其の参
[三]
骸骨もこの目玉をもらうまでは、ある意味で闇の中にいた。だからこそ明るく見えるこの世界の素晴らしさが判った。同時に見えぬ辛さも。
何だか不思議だなと思う。この海辺に来るまでは人に、世の中に失望していたはずなのに、いざ塞ぎこんでいる人を見るとこの世の素晴らしさを、希望というものを伝えてみたくなる。でもどうしてなのだろう、何故そう思うのだろう。まるで自分にはない希望が相手にはあると決めつけているみたいに。
だが今になって判ってきたことがある。それはもし人に喜ぶ権利、幸福になる権利があるとするなら、同様に失望し、嘆き、苦しむ権利もまたあるのだと。それが生きているということなのだと。そうだ、それをあの子に伝えなければならない。いいことばかりではないのかも知れない。だからといって悪いことばかりでもないのだ。
雨上がりの次の朝、和美は洋子に手を引かれてやって来た。にこにことうれしそうに笑って、まるで初対面であるかのように洋子と骸骨を引き合わせた。何故そんなことをするのだろうと訝っていると、和美がとんでもないことを言い出した。
「ねえガイ骨さん、ウチで働いたら?」
骸骨は呆気に取られた。そんなことを言うために洋子を連れ出したのだろうか。
「ねえ、お姉ちゃんだってそう思うでしょ」
彼女はまるで挑むかのような口調だった。
「ええ、わたしはいいと思うけど‥‥お父さんが何て言うかしら」
気難し屋の父親の顔がありありと浮かんだ。
「わたし、お願いしてみる、いいでしょう?」
和美は真剣だった。そうなったら梃子でも動かないのがよく判っていた。
「だってガイ骨さんのご都合だって‥‥あるでしょ」
洋子は宥めようとするのだが、その語調はどことなく弱々しい。
「ガイ骨さんだっていいわよね?」
あらぬ所を見つめる目が妙に据わって、同意を求めているというよりは命令しているみたいだった。骸骨はその気迫に呑まれてカクカクと頷いた。
「じゃあ決まりね、わたし行ってくる」
「行っテくルって何処へ?」
骸骨と洋子が同時に口を開いたので、何だか変な調子になった。
「お父さんのとこ。ガイ骨さん、待っててね」
和美は杖を片手に飛ぶようにして小径を去っていった。後には呆気に取られた二人が残った。