【前回の記事を読む】分厚い封筒を膝に置かれて、「今までの給料と、それから餞別だ。急で済まないが頼む、わしの気持ちも分かってくれ」と…

其の参

[五]

やがて駅の戸がガラガラと開けられた。骸骨は行商の小母さんたちと一緒に中へ入った。辺りには魚の匂いが充満した。小母さんたちはガヤガヤと賑やかで逞しかった。その姿を見ていると、生きる力が湧いてくるような気がした。和美や洋子に会えなかったのは残念だが、前を向いて生きていこうと思い始めた。

改札が始まった。しょぼしょぼとした年寄の駅員にパンチを入れてもらうと、骸骨は右手の方へ歩いていった。昨夜の雨で湿った砂利が足元で小さな軋みを立てた。辺りには濃く霧が立ちこめていた。だが上天は眩しく、天気は上向きらしい。小鳥の囀りが聞こえて朝の空気が心地よかった。それがせめてもの救いだった。 

遠くで踏み切りがカンカンと鳴り出して、ガタンゴトンと列車が近づいてきた。どこへ行くのかまだ自分にも判っていなかった。だがどこでも何とか生きていけるような気がしていた。この広い世の中にはきっと自分を受け容れてくれる人がいる。そう信じてみようと思う。そのためにまた旅に出る。

 

一方和美はじりじりと焦っていた。今この瞬間にも骸骨が列車に足を踏み入れるような気がした。

「どっちだか分からんが、二駅ばかり行ってみろ。だがな、駄々をこねて引き止めちゃいかんぞ」

出てくる時の源造の声を頼りに今西の方へ向かっている。和美はしきりに眉間を顰めていた。瞬きをしながら、手を翳してライトの先から目を逸らせていた。そんな姿を見るのは実に久し振りのことだった。

「お姉ちゃん‥‥眩しい」