ガラガラと腹に響く音がしてドアが閉じた。一呼吸置いてガクッと振動が伝わり、列車はゆっくりと動き出した。
「ガイ骨さぁーん」
和美の叫ぶ声が聞こえた。だが骸骨はドアに寄りかかって背中を見せたままだった。ゴトンゴトン、ゴトンゴトンと列車は速度を上げていく。左の目の隅に彼女の姿が近づき、やがて背を抜けると右目の隅に入ってきた。和美はふらふらと立っていた。
骸骨は端から知っていたのだろう。洋子の車が着いたことも知っていた。だが振り返る訳にはいかなかった。今振り返ったら何もかも振り出しに戻ってしまう。
列車はどんどん加速していった。ホームを外れた時、最後部の窓から和美の小さくなっていく姿が、そして傍に寄っていく洋子の姿が見えた。ガタンゴトン、ガタンゴトン、その一音一音に和美の姿はどんどん小さくなっていく。
「ソウダ、モウ杖ハ要ラナイ」
骸骨は横目で見つめていた。顔を向けてはいけない。ここは我慢しなければならない。握り締めた拳がギリギリと軋みを立てた。
「ソウダ、外ノ世界ヘ目ヲ向ケルンダ」
骸骨は低声で呟いた。和美は両手で目を覆ったままこちらに面を向けていた。その姿が無性にいじらしかった。
「カ、和‥‥チャン」
骸骨はギリギリと拳に力を入れた。やがて背中に圧力が加わって列車はカーブした。景色は緩やかに回転し、和美の姿が徐々に視界から消えていった。
列車は快調な響きを立てて走っていた。いくつものトンネルを抜け、集落を迎えては去っていく。それらの風景に合わせて身体が揺られ、様々な想いが去来した。色々な人との出会いがあり、別離があった。彼女にも二度と会うことはないだろう。だがこの胸の中にあの笑顔がある限り、彼女は友達だった。例え二度と会うことがなくても、和美はいつまでも友達なのだと思った。
[了]
本連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。
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