【前回の記事を読む】儀式が終わると手早く彼女の皮を剥ぎ、持ち運べるだけの大きさに細かく肉を分ける。彼女の心臓はその時、まだ温かかった。

真夜中の精霊たち

走っている動物の真横に馬をぴったりつけて並走し、一本の矢で確実に心臓を一突きにする技を、彼はひたすら磨いた。

お陰で狩りに行くときは一本の本矢と、何かあったときのための二本の予備矢だけという、誰よりも軽装な出で立ちになった。

ハイホースや他の仲間たちは、誰が一番多く狩れるかを競い合っていて、ドゥモと同じように若く壮健な肉体を持ち、ドゥモとは違う勇猛果敢な態度で、部族みんなの役に立っていた。

彼らは一度の狩りで何頭もバッファローを仕留めるので、狩りに出られるような男のいない家庭にもきちんと食事が行き渡り、余した分は冬の狩りができないときのための非常食用に、老人や女達が丹念に燻(いぶ)して乾燥肉にしてくれる。

ドゥモも初めのうちはよく彼らの競争に誘われたけれど、その都度、僕には残念ながら必要なだけの克己心がないようだと言って断っていた。

乾燥肉が足りなくて冬にみんなが飢えるのは困るけれど、部族にはドゥモの叔父やハイホースの父みたいに、百戦錬磨の達人が何人もいたし、その息子達は、まだ父親達ほど熟練した技はないにしても、有り余る体力でそれを補っていた。

ドゥモが英雄になろうと頑張らなくとも、部族の全員が食べてゆけるだけの肉は十分にあったんだ。