【前回の記事を読む】彼女の足もとに身を投げ出して亀ダンスを披露したい衝動をおさえ、彼女ににじり寄り…
真夜中の精霊たち
ある日彼の元に現れたインベーダー達は、あの恐ろしい琥珀色の水を持ってきて、友情の印だと言って無償でそれを振る舞った。
不思議なことに、地面が歪んで立てなくなったのはエルク・ドリーマーだけで、一緒に飲んでいたインベーダー達は、顔がちょっと赤くなりはしたものの、最後まできちんと座り、立ち去る時にも歩調は乱れなかった。
無償でエルク・ドリーマーに酒を振る舞ったのは最初の数回だけで、その後はバッファローの皮か、部族に関する情報の提供がないと、酒をくれと懇願するエルク・ドリーマーの願いは聞き入れられなくなった。
あまりに彼らと親しくなりすぎたエルク・ドリーマーは、やがて自分がネイティブアメリカンであることを忘れ、彼らのやり方をそっくり真似るようになった。彼に恋の相談にやってきた人々から、何かしら対価を受け取らないことには、神聖な力を使おうとしなくなったのだ。
家族のティーピーからは放り出されたが、部族からの追放は目下のところ免れている。酔っても他者に危害を加えるということはなく、ただへべれけになって周囲の物にぶつかり、物を転倒させ、訳の分からない陽気な世迷言(よまいごと)を呟き続けているだけだったので、
部族のみんなのティーピーから少し離れた場所でなら留まることを許され、渋々ではあったが、バッファローの肉を分け与えてもらう権利も取り上げられてはいなかった。だが近頃は、相談者に吹っ掛ける対価が法外なものになりつつあったので、この権利もいつ失うか定かではない。
「バッファローの皮五枚と、三日分の肉を五回持ってくるのはどう?」
まだ部族から完全には見放されていないとはいえ、近頃は彼に食料を与えるのを拒みはじめた狩人が多い。エルク・ドリーマーが食うに困りだしているのを、ドゥモは知っていた。
「皮だ。皮だよ坊や。肉なんかじゃ奴らから何にも取れないからな」
酒に変える皮なんかよりも、腹を満たす食事のほうがよほど今の彼に必要そうに見えたが、ドゥモはエルク・ドリーマーの言い分を聞き入れた。
「皮八枚」
「駄目だ。十枚にしろ。バッファローの皮十枚だ」
なんでまだこの男に力が宿っているのか、ドゥモは心底不思議だった。けれど偉大なる精霊は、みんなが見放しはじめているこの男を、まだ見放すつもりはないみたいだった。