【前回の記事を読む】殺された人はみな頭皮を丸ごと剥がれてしまうのに、なぜか1つだけ無事だった遺体。代わりにその場に残っていたのは…

真夜中の精霊たち

「おいおいおい。蠱惑の笛がいらないってんなら、一体何しに来たんだ」

エルク・ドリーマーは不満げに言った。思いつめた表情で相談に来て、若者には荷が重いバッファローの皮八枚なんて進呈物まで約束したのなら当然、欲しているものは一つしかないじゃないか。

鹿の神秘の力を借りて対象の人物に魔法をかけ、夢遊病者のようにして家族のいるティーピーを自ら抜け出させ、笛の主の所までふらふらとやってこさせる蠱惑の笛。

娘が笛を奏でる青年の元までやってきたら、青年はエルク・ドリーマーのティーピーまで彼女を連れてくる。エルク・ドリーマーがパチンと指を打ち鳴らせば、催眠は消え、彼女は我に返る。

あとはもう簡単。他力とはいえ男の元に自ら足を運んでしまった娘は、観念するかその気になるかして、青年の求婚の申し出を承諾する。あれだけ念を入れて守っていた貞操も、鹿の精霊のお導きとあっては致し方あるまいというわけさ。

「ハミングアローがよく眠れるような笛を作ってよ。彼女最近、別に悩みがあるわけでもないのに寝つきが悪くなったって。何かたちの悪い精霊にいたずらされているかもしれないんだよ。だからそいつを宥めすかして、ハミングアローの元から去らせるような、そんなメロディーを僕に授けてくれ」

できればそのメロディーを聴いて眠った夜は、笛の主を夢に見るような呪文をかけてくれと、ドゥモは言いかかったが、彼らの伝統では夢は神聖なものだったので、それを操作するなんてことは不敬な気がして、この頼み事はしないでおくことにした。

こうして彼の日常には、狩りをする仕事と叔父について色々学ぶ役目以外に、ハミングアローを寝かせつける仕事が加わった。彼女が家族と一緒に寝ているティーピーまで出向いていき、外からそっと、ぐっすり眠れるメロディーを送るのだ。