真夜中の精霊たち

眠れない夜にはだね、テントウ虫ちゃん、パイプを思い浮かべてごらん。勿論、そんじょそこらの捨て置かれたような汚いパイプのことじゃないよ。といって、店頭にこれみよがしに並べられている美術品みたいなパイプのことでもない。今時そんなマニアックなものを売る店があればの話だがね。

僕が言っているのはだね。遠い昔、誰かがそれを作る時にも、出来上がってからも、常にそのパイプを手に取る者から敬愛と親しみの眼差しを向けられ、神秘の道具として慎重に取り扱われてきた、そんなパイプのことだ。

それは神聖な材料で作られるべくして作られ、時を経て代々受け継がれる血脈のようなものなんだよ。ある時代にはバッファローの骨で、ある時代にはとある霊山でしか採れない非常に珍しい紅い石で、つくりだされるのだ。

紅い石の取れる場所は聖域であり、何人たりともその場所を占有することは許されず、それがためにすべての人間を平等に受け入れる場所だった。敵対している二つの部族が近くに住んでいたけれど、そこで諍(いさか)いを起こすことは、どちらの部族の掟でも固く禁じられていてね。そこでは敵同士がおとなしく肩を並べて黙々と石を採掘している、ちょっと面白い光景が見られたものだ。

もし君が繋がりを求めるならば、パイプを吹かしてみるといい。七つの方角に向けて、聖なる煙を吹かすんだよ。

七つの方角ってなに? だって? テントウ虫ちゃん。僕の血を分けた妹よ。なんでもすぐに質問するのが冴えたやり方だなんて思うのはよしてくれ。本当の知性というのは、波風の立たない静けさの中からしか生まれないんだよ。

だからね、何かの答えを求める必要が生じたときには、まず耳を澄ますことから始めるんだ。耳を澄ませて風の音を聞き、水の流れる音を感じて、虫の鳴く声や鳥の羽ばたく音、それから人の話す言葉に、よく注意を払うんだよ。そんなふうにして日々を過ごしていれば、やがて君の求める答えが、向こうのほうから君のもとにやってきてくれるだろう。

だからどうか、なんでもすぐに知り尽くしてやろうと身構えたり、いろんなことが今にも分かったような気になって、本当なら与えられるはずだった素晴らしい贈り物を取り損ねたりしないでおくれ。