真夜中の精霊たち
パイプの話に戻ろう。七つ目の方角、つまり自分に向けて煙を吹くところを想像してごらん。君の心に吹きかけられた煙は、どんな形になって世界に飛び立つだろう。
彼の心から飛び立つ煙は、いつも夢の形をしていた。夢と聞くと僕らは、叶わない願いや遠い場所のことばかり想像しがちだけれど、彼の夢はいつも彼自身の輪郭の中にあった。地球の内部に僕らがいるように、彼のなかに世界が内在し、それがために彼の夢は神秘になり得たのだ。
彼の名前はドゥモ。部族の誇り高い狩人だ。彼の叔父が部族の中でも特に腕のいい狩人として皆から敬われていて、ドゥモはこの叔父から立派な狩人たる術を教わったんだ。本当はね、狩りをするよりも籠を編んだり、ティーピーって名前のテントを縫ったりするほうが、ずっと彼の好みだったんだよ。
けれどドゥモは叔父を大変尊敬していたので、狩人の道に進むことに迷いはなかった。彼には年の離れた兄と父がいたが、二人ともある大きな戦闘で銃弾に倒れて、随分前に精霊の世界に旅立っていた。
叔父さんも戦闘に参加していてね。この叔父さんが、彼の兄さんや父さんが最新式の銃を持った何十人ものインベーダーを相手に、弓一本でどれほど果敢に相手を追い詰め、最後まで勇敢であり続けたか。そんな話を、事あるごとにドゥモに語って聞かせたんだよ。
ビジョン・クエスト(成人式みたいなもんだ)に彼が挑んだ時には、精霊から神聖な力を授けられたメディスンマンではなく叔父が、彼のクエストの一切を引き受けた。
メディスンマン自身が、その神秘的な先見でもって、彼のビジョン・クエストはメディスンマンの自分ではなく叔父のスタンディング・ベアが執り行うといいだろうと言ったんだ。
彼はクエストに挑む前の数日間、叔父から部族の歴史や神話を伝授された。ホワイト・バッファロー・カーフ・ウーマンやスカイウーマン、亀の陸地。コヨーテのマッイイと星を司る神の話、ここでは語り尽くせない、さまざまな創世の物語について。
いよいよビジョン・クエストを始めるという段になると、みんなで蒸し風呂に入り、身を清めた。叔父に連れられて神聖な山に登る。そこからは独りだ。叔父は誰も登ってこないような険(けわ)しい場所に彼を置き去りにして帰る。