第1章
作為的に車椅子の後輪を荒々しく回転させる。キュルキュルキュルキュルと、寿命をすり減らされるゴムタイヤの断末魔の叫びが厭わしくて僕は瞳を閉じる。一瞬だけ。
オカンを乗せた車椅子を押して僕は病室から飛び出す。手押しハンドルをグッと握る僕。掌に汗。病院内の廊下を駆け抜ける。速度を上げる。
「駿ちゃん! いけいけ~! もっとスピードあげてー!」
末期がん患者を収容する緩和ケア病棟の六階フロアをサーキットに見立てて、オカンはコール。アドレナリン分泌全開である当該コールに、僕は「了解ィィ!」とレスポンス。車椅子って思ってる以上にスピード出るんやな、と頭をよぎったけれども、そんなちっぽけな思考は加速したスピードが振り切る。
この加速したスピードで、オカンの肉体に巣食うがん細胞さえも振り切ることを希望。ギシギシ、ギシギシと軋むアルミ製ホイールの単調音の繰り返しが、小気味悪く響き渡って、どこか死神の笑い声に似ている気がした。僕は知らんふりをする。