前方にナースステーションを確認。「オカン、どうする? このまま突っ込んだら、絶対に看護師に怒られるで」と問うたら、食い気味に「もちろん、突破ぁ!」と叫ぶオカン。当該大号令に、僕は再び、「了解ィィ!」とレスポンス。

ナースステーションの受付前でスピード転回。ギシギシ軋むホイール。キャッキャ、キャッキャ、少女のように笑うオカン。常識ある普段の優秀な患者キャラから大いに逸脱し、本日は迷惑行為を乱発するヤンキー患者を演じるオカン。怪訝な顔をする看護師たち。

「渡部さん! 廊下でそんなスピード出したらあかんでしょ! 危ないから!」「すみませ〜ん!」とオカンと僕、てへぺろ。

「渡部さん! 今日は一体どうしたの? 何があったの? ちょっと! 渡部さん!」

親子そろって謝罪しておいて、舌の根の乾かぬうちに「駿ちゃん、進め、進めェェ!!」と僕に号令を出すオカン。僕はそれに応じる。

学生時代は担任の先生に頼まれて生徒会長をしてました系の、凛とした20代前半優等生系女子の看護師が、大声で僕ら親子に正論を振りかざし牽制。薄ピンク色した白衣が重ねて正しさを主張する。

20代女子が人生の大先輩であるオカンのことを、看過できず真剣に叱っている現状を俯瞰すると非日常的で笑える。この頃のオカンは全身にがん細胞が転移しており、世間一般でいう末期がん患者であった。「お前に治癒する可能性は無いのだから、諦めてとっとと一般病棟から出ていくんだぜ」と、現代医療から切捨てられたオカン。

そんなオカンは、残された余命を楽しく自分らしく和やかに生きるため、治癒を目的としないQOL(生活の質)の維持向上を目的とした、別名ホスピスと呼ばれる緩和ケア病棟に入院していた。

次回更新は3月11日(水)、14時の予定です。

 

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もっとスピード出さんか〜い!

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