「火点し時」 

優人は仕事帰り、いつものように彼女のアパートに寄った。今夜も静子の帰りは遅い。優人はコンビニで買ってきた缶ビールとそば、するめをつまみながらしばらくテレビを観ると、風呂を済ませてからベッドに入った。十一時過ぎ、家主が帰ってきた。

「お帰り」

「来てたの……」

静子は疲れているようだった。

「風呂、追い焚きすればすぐだと思うよ。そんな冷めてないから」

「うん、じゃあ入る」

静子は言葉少なに風呂へ消えた。飲食店で働く静子の帰りは遅く、夕飯は賄いで済ませたようだ。優人は携帯を持ち直し、ラインの続きを打った。日付が変わった頃、静子もベッドにやって来た。優人は早速手を伸ばす。

「起きてたの? 何、ちょっと今日は疲れてるんだけど……」

「いいじゃん、しようよ」

優人が上に乗ると、静子は身を任せた。何だかんだ言って、静子は優人を拒否しない。優人はついさっきまでラインしていた相手のことを考えながら恋人を抱いた。

田野優人は社会人になって二年のショップ店員で、恋人の本山静子とは、大学時代のバイト先である喫茶店で知り合ってからの付き合いで、もう三年になる。が、ただ今同じ職場の同僚と浮気の真っ最中だった。仕事に慣れ、長続きしている彼女との関係に慣れ、現在生まれて初めての秘密の仲に夢中になっていると言えた。いつもの営みにも刺激が加味されるというものだ。

静子は本当に疲れているようで、ことが終わったらすぐに寝てしまった。少しくらい話したかったが、まあ仕方ない。明日も仕事だ、寝なくちゃ……。優人も携帯のメッセージを確認すると布団を被った。

朝になり、優人が身支度を調えていると、静子が起き上がった。

「あ、起きた? そろそろ行くよ。コーヒー入ってるから。来週また来るよ」

「うん、行ってらっしゃい」

優人は玄関を出ると合鍵で鍵を閉めた。静子の出勤時間はもう少し遅い。これが今のルーティーンだ。

静子のアパートと優人の自宅は最寄り駅が隣だった。アパートから自宅までは歩いていけるが二十分はかかる。優人はここ二年ほど、ほぼ月の半分は家族の家に帰っていなかった。週二、三回あのアパートに泊まっているわけだが、二ヶ月前からその内の数回は同僚とホテルへ行くという習慣ができたのだ。職場の飲み会の帰りに、そうなった。