今から君に話す物語はね、今日のようなとても眠れそうにない夜に、うってつけの話なんだよ。七つの方角の意味を知りたいのなら、そうだね、まずはその話から始めよう。だけど次から質問はなしだ。いいね。

七つの方角とは、この世のすべての場所のことだよ。始まりの東と終焉の西、豊穣の南と浄化の北。それぞれの方角に煙を吹かせて、次は上に、天の国に向かって吹かすんだ。そして下に、地の国にたいしても同じようにするんだよ。

彼らの言い伝えでは(彼らっていうのは、今から僕が話す青年とその一族のことだけど)、偉大なる精霊が世界を創造する時、この六つの方角をお定めになった。けれどまだ、一つだけ定められていない方角が残っていたんだよ。

最後の方角は、あらゆる方角の中で最も強い力を宿し、叡智(えいち)を湛(たた)えていた。あまりに大切なその方角を、偉大なる精霊は、野ざらしにしておくことなどとてもできなかったのだ。だから、最も見つけるのが困難な場所に隠した。もうお解りだよね。そうだよ。最後の方角は、僕たちの心の最も深淵な場所に隠された。

叡智の方角を己のなかに持たない生物など存在しない。だけどそれを常に見失わずにいられるほど、僕らはいつでも正気でいられる訳ではないのだ。心を見失うとどこにも行けなくなってしまうのはきっと、このためなんだね。だからテントウ虫ちゃん、僕達はこの最後の方角を見失うわけにはいかないんだよ。決してね。

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