【前回の記事を読む】「女の子だから、そんな食べ方はダメ!」に納得がいかない理由

居場所

小学校の高学年、音楽の授業が嫌いになった。特に合唱は女性と男性のパートが存在する。僕は、どんなに頑張っても男性の声のようにはならなかった。声なんて普段は気にならない。ただ、合唱をする時には自分自身を思い知る。なんて中途半端な声なのだろう。

「横関さん、もっと声出しなさい。聞こえないよ」

僕はそうやっていつも叱られた。コンプレックスを他人に見せたくないと思うほど、なぜか目立ってしまう。

ある時、音楽の先生は全員を立たせてから校歌を歌わせて、声の出る人から順番に座らせるやり方を始めた。僕はいつも最後まで立たされた。その時間は憂鬱だった。好きな女子にかっこ悪いところを見られる、胸が締め付けられそうだった。

小学校の大きなイベントの一つである修学旅行が近づいた。僕を悩ませる難関の問題はお風呂だった。女子に自分の体を見せることが拷問だった。男子の前で裸になった方がまだ良かった。家族に相談をしたもののあまりいい解決策は見つからなかった。

修学旅行当日、先生に無理矢理組まされた女グループで行動した。最初は拗ねていたものの女子といるのも意外に楽しくて溶け込んでいた。話のネタは男子よりもずっと豊富で会話が尽きることがなかった。それがちょっとだけ新鮮だった。

楽しい時間を過ごす一方で、お風呂の時間が近づくたびに憂鬱な気持ちになった。ご飯を食べ終えて、お風呂の時間が来た。しかし、あまりに悩み過ぎたのか直前で本当に胃が痛くなったのだ。ラッキーだった。そのため修学旅行でお風呂には入らなかった。

ほっとした一方でほんの少しだけ残念な気がした。矛盾しているようだが、できるのなら普通にみんなと同じことをして共有したかったのだ。お風呂に入る時だって本当はもっと楽しいはずなのだと思えたから。お風呂場から友達の笑い声が聞こえるのに、僕だけが布団の中にいた。その事実だけが僕を孤独にさせた。本音を言うなら、村瀬の裸を見てみたかった。

秋が来てマラソンの授業が始まった。小学校のマラソンは千五百メートルを走る。僕は、短距離は得意だ。ただ、長距離となるととても遅い。僕とは対照的にバスケ部の村瀬は持久力に強く、いつも上位に入っていた。僕は異性として意識する村瀬に負けることが悔しかった。

毎回、僕が必死に走っても村瀬の脚力の強さには届かない。いつも中盤になれば村瀬は風のように僕を追い抜く。それは僕のプライドが許さないのだ。欲張りかもしれないが、僕は好きな女子よりもいつも強くありたい。