【前回の記事を読む】普段は一頭しか仕留めてこなかった彼が、たった一本の矢でもって七頭ものバッファローを仕留めて部族全体が大いに沸き立った
真夜中の精霊たち
「君を誇りに思うよ。若い頃の私でも、一本の矢でこれだけの獲物は仕留められなかった。優雅な狩人よ。柔らかい肉をありがとう。私からも何か欲しいものがあれば言いなさい」
その時彼が、どれほどハミングアローをくださいと言いかかったことか。君に想像できるだろうか。でも一切れの柔らかい肉くらいで彼女を求めることなどできない。代わりになんと答えたのか、彼は忘れてしまった。とても緊張していたからね。
ドゥモは知らなかったけれど、キッキング・バードは年頃の娘を持つ他の父親同様、一人一人の青年を、当人達が想像もつかないほどよく観察していた。
彼らの社会ではね、子供達は幼い頃から大勢の大人達に囲まれて、生まれ持った性質を測られ、その特性に合った方法で教育を受けるんだよ。
勇気がない子には、勇気も大事だが分別はもっと大事だと教え、勇気はあるが優しさに欠ける子には、お前の勇気はいずれ部族みんなの役に立ち、お前は誰よりも頼りがいがあって優しい大人になれるよと鼓舞する。物覚えがいい子にはどんどん新しいことを教え、物覚えの悪い子には、一つのことにじっくり時間をかけて向き合う精神を教えるのだ。
キッキング・バードはね、ドゥモがまだ幼かった頃から、彼のことを買っていたんだよ。彼よりも勇敢な子は沢山いたし、彼よりも俊敏な子も、彼よりも勘のいい子だっていた。けれども彼は、他のどの男の子よりも思慮深いのだ。
ドゥモのビジョン・クエストの話を聞いた時、キッキング・バードは悲しんだ。将来有望だと思っていた若者が、それほど長生きできないなんて─彼のような男に娘をと、密かに考えたこともあったが、近い将来死ぬと分かっている男に娘を嫁がせることなど、できるはずがない。
恋する女の子のパパの心中など、知る由もなかったドゥモはその日、息勇んでダンスの準備をしていた。ハミングアローのことで気が病んで怖気づきそうになると、キッキング・バードがくれた賛辞や叔父の誇らしげな顔、優雅な狩人という称号を部族から与えられ、外の世界でも彼の名が知られつつあることなどを思い起こした。
川で泳ぎ、叔父や親戚の男達と蒸し風呂に入り、髪を丁寧に梳いて。少し前に小物細工に秀でた部族から、川の畔でたまたま拾った天然ガラスと交換に作ってもらったトルコ石の首飾りをつけ、この日のために特別に調合しておいたシトロンにカルダモンを加えた香油を、いつも以上に身体や髪の毛にふんだんに塗り込めた。