出来は上々。あとはすれ違うほんの一瞬、ハミングアローがどんなふうに自分を見るか、見ないか、人に独特な印象を与えるあの彼女の瞳の中に、ちょっとでも何かの好意の合図がないか探るだけだ。

ダンスが終わった後彼は、雨に打たれた薪のように意気消沈していた。なんであんなに色気も素っ気もない子を好きになってしまったのだろう。もしかして、自分がひどく頓馬 (とんま)に見えるのは、実のところあの子のせいじゃないのか?

ハミングアローはダンスには参加せずに、父親のキッキング・バードの隣に腰をおろして、寒くもないのに婆さんみたいに毛布を被り込み、男女の若者がダンスに興じるのを眺めていたのだ。

ドゥモは、君には年頃の女の自覚がないのか、まだ恐ろしくうら若いくせに、すっかり保護者みたいな顔をして、分別くさく取り澄ましているのは、いったいどうゆう訳なんだと、ハミングアローの小さな双肩を掴んで百回くらい揺すぶってやりたいと思った。

やっぱり毛布のデートだ! それしかない。彼は新たに決意を固め、ダンスの日からそう経たないうちに、自分の持っている中で一番綺麗な毛布を用意した。

君は他人事(ひとごと)みたいに笑っているけどね、テントウ虫ちゃん。彼にとってこの問題は、とても笑えやしないんだ。生きるか死ぬか。まさにそんな問題だったんだよ。

空に星が浮かび人の心が滲む夜、彼は彼女と彼女の家族が暮らすティーピーを訪れた。何を話すか、どんな言葉で口説くかといった肝心なことはすっかり忘れて、全くのノープランで彼女のティーピーまで来てしまったが、そこまで来てしまうと彼は、かえって落ち着きを取り戻し、川の畔でひとり祈りを捧げる時のように、心が静まりかえるのを感じた。

 

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