【前回の記事を読む】「覚えるともうかるぞ」私はマッサージの"スペシャル"の意味をようやく理解した。そう言って横になっていた男は上向きになり…

第二章 尊き教え

「スペシャルなんか教えていただかなくて結構です。そんなことまでして稼ぎたくありません」

「おめえ、ようく考えろよ。めくらってのは、人に迷惑かけることが多いんだろう、そんな時に札びらちらつかせてみろ、少しはおめえらに手を貸してくれる者も出てくるってものよ。世の中何とか言っても金次第だ。分かったらお勉強始めようぜ、お嬢ちゃん」

寺坂の言うことは一理あった。家族からも施設からも理不尽な扱いを受け、どれほど屈辱に苛(さいな)まれてきたことか。それを跳ね返し、彼等に珠輝の尊厳を認めさせるには、金を稼ぐしかない。

珠輝は寺坂に反論できなかった。かと言って、得体の知れない男どもの玩具になって金を稼ぐなどまっぴらだ。珠輝は悔しさに、心で歯ぎしりした。

「リッキーさん助けて」

珠輝は白衣の胸ポケットのブロマイドに救いを求めた。

リッキー・カーチスはリズム・アンド・ブルースを歌う歌手で、実に美しい高音の持ち主だった。哀愁をおびた歌を歌ったなら、悲しみの坩堝(るつぼ)に吸い込まれるようだった。

珠輝はそんな彼の歌が好きだった。言いようのない寂しさに襲われたとき、彼の歌だけが珠輝の救いだった。

彼は幼くして両親を亡くし、貧乏のどん底から歌手になった人だった。珠輝はいつも、リッキー・カーチスに我が身を重ねていた。珠輝が金倉を選んだのも、博多のT町がリッキーのふる里だったからで、彼に縁のある人に会えることを期待してのことだった。