【前回の記事を読む】「杖を使わないと立つことも歩く事もできないから」私は目が見えないけど、彼女を気の毒に思った。さらに家の中では杖を使わず…
第4章 一人になった珠輝
お姉ちゃんとの誓い
「お姉ちゃん、学校に行ったの。」
「お姉ちゃんは足が悪いから学校には行ってないのよ。」
「けど、お姉ちゃん目が見えるし、足が悪くても自家用車があるから運転手さんに学校に連れていってもらえばいいやろう。」
「自動車は仕事に使うから学校に乗って行ってはいけないの。だから君代ちゃんも雨が降っても傘を差して歩いて行くのよ。けどお姉ちゃん学校に行っても杖を突いて階段が上れないからだめなのよ。」
「ふうん、そんなら勉強はしてないと。」
子供とは呆れたものだ。だが珠輝にはこれは大事なことだった。
「おうちに先生が来てくれるから字を書くことも教えてもらったの。こういう先生のことを家庭教師って言うのよ。」
「ふうん、それならお姉ちゃんは勉強してるから偉い人になれるね。勉強しないと乞食にしかなれないやろ。お姉ちゃん私は学校に行けないから乞食にしかなれないけど目が見えないから乞食にもなれんとよ。どうしたらいいやろうか。」
「珠輝ちゃんは乞食になんかなるもんか。きっとお母さんが学校にいかせてくれるよ。乞食になるのはお姉ちゃんよ。」
「家は貧乏だから学校のことを言っただけでもものすごく怒られたよ。お姉ちゃん、私は目が見えないから乞食にもなれんとよ。」
そう言って涙をぽろぽろこぼす珠輝にお姉ちゃんは言った。
「珠輝ちゃん心配しないでいいよ。お姉ちゃんは目が見えるから珠輝ちゃんの手を引いてあげる。だからお米やお金は珠輝ちゃんがしっかり持つのよ。もう泣かないで二人で乞食をしようよ。」
そう言ってお姉ちゃんは珠輝の手をしっかり握ってくれた。わずか十三、十四歳の少女が七つ八つの子供を慰めるのだから大変だったに違いない。だが自死さえ考えていた珠輝を救ってくれた人こそこのお姉ちゃんだった。今思い出しても涙がこぼれる。