珠輝に春がやって来た
母の折檻こそ続いたもののお姉ちゃんのおかげで心は軽くなった。そんなおり、母に吉報が入った。山本三郎先生(曻地三郎/明治三十九年~平成二十五年)の講演会が、珠輝が住む町で開かれることになった。
山本先生というのは、福岡市南区井尻にある児童発達支援センター『しいのみ学園』を創立した教育学者で母がぜひ話を聞いてみたいと思っていた方だ。その講演会には福祉関係職員もやってきて、個人の相談にも対応するというものだった。
母は川村夫人を誘い珠輝を連れて先生の講演を聞きに出かけた。川村夫人はお姉ちゃんを施設に入れる予定だったがご主人の猛反対で実現しなかった。講演が終わると母は珠輝を先生の所に連れて行き、何か話をしていたが、彼女に内容は分からなかった。
やがて先生は珠輝にむかって「学校に行かないとだめだよ。立派な人になれないからね。お父さんもお母さんも一緒には行けないけどみんなお母さんたちと離れて一人で勉強してるんだからね。」
それを聞いて珠輝は内心喜んだ。親と離れて暮らすのならもう叱られたりぶたれたりしなくて済むのだ。さてこれを機に珠輝の福祉施設への入所と盲学校入学の話は急速に進んだ。
母は珠輝を連れていろんな所に出かけた。記憶にあるのは児童相談所で知能テストを受けに行った時のことだった。母にはどんな問題が出るやら見当がつかず、とにかく何でもよいから珠輝に教え込んだ。
母は是が非でも珠輝を学校に入れたかったのだ。母こそが誰よりも珠輝の就学を真剣に考えてくれていたのだ。
「珠輝、お母さんの言うことをよ~く覚えなさいよ。○○農林大臣と××総理大臣。聞かれたらはっきり答えなさいよ。」