【前回の記事を読む】「大声を張り上げたって誰も来ない」両手を捕まれ、無理やり触らせられ…。ことが終わると、涙を流しながら夢中で手を洗い続けた

第二章 尊き教え

そうなるとおかしなもので、妙に度胸がつくものだ。涙もようやく止まった。

その時だ。珠輝は志村教師を思い出した。志村があれほど怒ったことが分かるような気がした。

「先生は私を危険から守ろうとしてくださったのだ。自宅専門なら外に出ることもない。固定給だから収入は安定する。先生はなぜそれを分かりやすく説明してくれなかったのだろう」

それでも珠輝は、志村教師に対するわだかまりが解けていった。

「いやあ、まいったまいった。社長が声をかけてくださらなかったらどうなることかと……。彼女の反撃に遭い、腕には血がにじむしカッターシャツには穴を開けてくれましたし。このシャツ三千円したんですよ」

「いやあ、すまんすまん。わしはさっきから来て君たちの様子を見てたんだ。で、君から見た彼女は?」

「純情一筋、全く擦れてないのはいいんですが、性についての隠語なんかも知らないんです。だからスペシャルを二人分のマッサージと勝手に判断したのです。

私も社長のようにスペシャルをやるように言いますと、あなたは若いし体が軟らかいから、かえって体に悪いからできないと言いました。金は喉から手が出るほど欲しいのに……。

この純情と正直な心が世間に汚されてしまうだろうと思うと、柄にもなく泣けました。あの子には親がいるのでしょうが、なぜ娘にいろいろなことを教えて、少しは世間を渡るための免疫を付けてやらなかったんでしょうか」

「あの子は児童福祉施設にいたんだから、そうそう親とも会えなかったろうよ。なあ寺坂君、あの子が少しでも安全に働けるように、何とか導いてやりたいんだ。だがわしはそんなことにはとんと不器用でな。

そこで、君と家内の力を借りたいんだ。家内は賛成してくれたが君はどうかね。なあに、彼女だってそのうち朧気(おぼろげ)ながら世間の裏表も分かってくるだろうからな」