【前回の記事を読む】マッサージを終えた私に「息子がまだのようだな」と薄ら笑いを浮かべる男。だが全盲の私はそれに気づかず…

第二章 尊き教え

「息子さんまでさせていただけるのですか」

珠輝の笑顔に社長はやや戸惑ったようだが、それも珠輝には分からない。

「まあ息子はさておき、こっちの部屋においで」

慣れない社長は戸惑っている珠輝の手を慌てて引いてくれた。通された部屋には社長夫人がいた。

「お疲れでしたね。お茶をどうぞ」

夫人は珠輝に湯飲みを持たせてくれた。

「今日はいつもよりかなり長かったようですね」

「はい、今日はスペシャルで致しましたから」

夫人の顔が険しくなったことを珠輝は知らない。それでも夫人は珠輝が請求した二人分の治療費を渡してくれた。先ほどの男が金倉に送り届けてくれた。店には皆戻っていた。

初めての患者さんを二人分施術できたことで、珠輝の心は弾んでいた。

仕事先での珍事から間もなく、珠輝に指名の電話があり、迎えに来てくれるとのことだった。

「珠輝ちゃん、寺坂さんという人を知ってる?」珠輝に聞き覚えのない名だった。

「知りません」

「けどあんたをご指名だから行っといで。指名がついて良かったね」奥さんは上機嫌だった。やがて車が停まる音がした。

「珠輝さんをお借りします」