【前回の記事を読む】仕事が少ないと家主はご飯を出してくれない…。その日は先輩がラーメンを奢ってくれて、私は涙を流した

第二章 尊き教え

施術を終え、半額を奥さんに渡し、残る二枚の百円札は、いつまでも手の中に閉じ込めておきたかった。

「とうとう自分の手でお金を得ることができた」

珠輝の目に涙がにじんだ。握りしめた二枚のお札は、途轍もない大金を握っているような重みがあり、感無量で、しばらく身じろぎすることもできなかった。

世の中そううまくはいかないもので、初日こそ仕事に就けたものの、次の日から京子さんや奥さんの指名ばかりで、珠輝はツキに全く見放されていた。そんなある日、事件? は起きた。皆が仕事に出払っているところへ電話があった。

「はい、金倉鍼灸院でございます」

主人や奥さんの口真似で、電話の応対だけは何とかできた。かけてきたのは「桜木」と名乗る若い男で、なかなかの美声の持ち主だった。彼によると、金倉は初めてとのことで、四、五分で来るとのことだった。

「しっかり施術すればひいきにしてくれるかも知れない」

珠輝は淡い期待を胸に秘めた。

やがて玄関前に車の停まる音を聞いた珠輝は、玄関口で待っていた。入り口が開いて男がやってきた。男は珠輝を見るや、

「あなたの他に誰もいないのですか」

この問いに、珠輝はいささかむっとした。自分が否定されたような気がしたからだ。

「はい、みんな仕事で……」

「そうですか」

珠輝は男の声が曇ったのを聞き逃さなかった。それでも男は珠輝の手を取り、車の助手席に座らせた。