「改まって礼を言われることはないけどなあ」
と言いながら社長は起き上がり、珠輝の正面に座った。気配を察した珠輝は畳に両手を突き、
「毎年私たちの施設に美味しいお菓子を頂きまして、本当にありがとうございました。立派なお菓子をたくさんくださいましたから、クリスマスが楽しみでした。これから少しでもご恩返しに、一生懸命させていただきます、どうぞよろしくお願い致します」
珠輝は畳に頭を擦り付けるように下げた。二人の男はさぞ驚いたろう。
「ほう、そうかね。では今日はスペシャルでもやってもらうとしようか」
珠輝は喜びを隠せなかった。スペシャルという言葉に聞き覚えはなかったが、素敵な響きだった。しっかりやればひいきにしてくれるかもしれないと珠輝は期待した。
「スペシャルさせていただけるのですか、ありがとうございます。一生懸命させていただきます。では右肩を上に、私に背中を向けてお休みください」
「スペシャルは上を向くのじゃないのかね」
「上向きは後でやりますが、まず横向きからです」
社長は横になってくれた。社長と男は何か目で話しているように感じていた珠輝だが、別に気にしなかった。やがて男は部屋を出ていった。
「スペシャル」を二人分の時間をかけて施術するものだと思い込んでいたから、華奢な体の珠輝は施術に全力を尽くした。規定の時間が来たので、
「これで終わりました、ありがとうございました」
「おお、良くやってくれましたね。だが、息子はまだのようだな」
社長の薄笑いを珠輝は見ることはできない。
次回更新は8月18日(月)、21時の予定です。
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