「あなたはここに来てどのくらいたつのですか?」
「十日です」
「えっ、マッサージ師になって十日ですか」
珠輝は落ち着いて、
「いいえ、一年他の店で修業してきました」
「ああ良かった。うちの社長は力が要るから、しっかりお願いしますよ。いつも呼んでいる人が体を壊しているそうだから、あなたにお願いするのですからね」
こう言われると、珠輝はますますこの男に好感が持てなかった。だが、口が勝手に動いた。
「はい、しっかりさせていただきます。どこかの会社の社長さんですか」
「スーパーマル得の社長さんです」
「えっ、本当ですか。社長さんには大変お世話になりました。だから一生懸命させていただきます」
「そうですか」
男はやや驚いたようだ。車は玄関前に横付けされ、珠輝は男に手を引かれ、座敷らしい部屋に通された。
「社長がここにお休みです」
男が患者の肩に珠輝の手を乗せた。
「スーパーマル得の社長さんですね」
「そうだが」
「私は丸山珠輝と申します。私は『新星寮』から盲学校に通いました」
「あんたの履歴を調べる気はないから按摩を始めてくれないか」
社長はぶっきらぼうにそう言った。珠輝はややたじろいたが思い切って、
「私はご挨拶 (あいさつ)の仕方はよく分かりませんが、お礼のご挨拶(あいさつ)をしたいと思います」