珠輝は授業で教わったことを話した。
「余計なことばかり並べるんじゃないぜ。客の言うとおりにすりゃいいんだ」珠輝は口を噤(つぐ)むしかなかった。
「おい、そろそろスペシャル始めてくれないか」
「まだ最初の時間が残ってます」
「お、おめえスペシャルがどういうことか知ってるんだろう」
「スペシャルは二時間揉(も)むことでしょ」
「な、なにい。おめえ俺に噓(うそ)ついたな。かわいい顔してとんだ食わせ者だぜ。おめえ按摩の成り立てだろう。まだ一か月くらいしかたっちゃあいないんだろう。本当はおめえ、スペシャルの意味を知らねえんじゃないか。それとも知っておきながら、純情と見せかけて、ちゃっかり二人分の料金稼ごうってわけか。
俺はそこまでおめえは擦れちゃあいないことだけは信じてやる。ようし、それなら本当のスペシャルってヤツをじっくり教えてやるとしよう。なあに心配するな。授業料は免除してやるよ。その代わり、今日の按摩賃は払えないからな」
これを聞いた珠輝は顔が真っ青になった。もしこの客が金を払ってくれなかったらどうなる。今まで稼いだお金から金倉先生に今日の施術費を払わなければならないだろう。
「あんたが下手だからお金をもらえなかったのだから、うちに損をさせられると困るよ。ただ飯食わせるつもりはないからね」
そう言われるに違いない。珠輝の困り果てた様子をちらちら盗み見しながら、男はほくそ笑んでいた。
「おめえ金が欲しいんだな。なあに、スペシャル覚えるともうかるぞ。ひいき客もじゃんじゃん付こうってものよ」
珠輝は、スペシャルの本当の意味をようやく悟ることができた。
横になっていた寺坂が上向きになった。
次回更新は8月19日(火)、21時の予定です。
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