其の参
[三]
一方渋谷整形外科病院では、明日に控えた難しい手術の打ち合せをしていた。重症の椎間板ヘルニアの手術だった。渋谷医師の診察室ではコンピュータの画面に何枚ものCT画像が展開され、二人の医師は各々の意見を出し合っていた。
慎重派の渋谷医師と大胆な伊藤医師とは、そこでも術式に微妙な意見の食違いを見せていた。だが二人はやんわりと衝突しながらも、結局は伊藤医師が院長に譲る形となった。それで一応意見がまとまった。
渋谷医師は煙草を抜き出すと火を点けた。ゆっくりと吐き出す烟が窓から入る風に乗って、伊藤医師の方へ流れていった。すると彼は眉を顰めて頭をずらした。
「時に、伊藤君、お盆はどうするんだっけ?」
「出ます」
「それは助かるけど、代休はいつにする?」
「明けてすぐ採るつもりですけど‥‥」
伊藤医師の目がキラリと光った。
「それと合わせて、休暇をいただけませんか?」
「どれくらい?」
渋谷医師は眉を曇らせた。甘い顔を見せてちょくちょく休まれるのは迷惑だった。