「一週間程お願い出来ればと‥‥」
「一週間か、叔父さんは元気になったのかね?」
「お陰様で」
伊藤医師はちょっと口の端を歪めた。
「で、今度は何、またお見舞い?」
「いえ、今度は法事でして」
二人の視線がカチリと合った。伊藤医師の目が挑むような色を見せた。渋谷医師は素知らぬ顔をして煙草を揉み消した。
「あまり休まれるのも困るねえ、今度だけにして下さいよ」
「はあ、申し訳ありません。でも今度でカタが着くと思いますから」
渋谷医師はそのことばにちらと一瞥を投げかけた。だが伊藤医師は今の失言に気づかなかったらしい。
「では、失礼します」
そう言って彼は出ていった。渋谷医師はもの思いに耽った。衝立ての傍の標本は薄っすらと埃を被っていて、どうやらもうコンタクトを諦めたらしい。
彼は骸骨の居所を掴んでいる。それを今度の休みで決着を着けるつもりなのだ。だがカタを着けるとはどういう意味なのだろう。一体何をするつもりなのか。それが気がかりだった。
骸骨からは相変わらずなしの礫だった。渋谷医師は傍らの標本をちらと見た。人の気も知らず、どこで何をしているのだろう。身に危険が迫っているのも知らず、暢気なものだと思った。
報せる手立てのないのが歯痒かった。そうしてただ焦り焦りしながら、机に向かって無闇に煙草を吹かしていた。何だかもう永久に骸骨には会えないような気がした。