【前回の記事を読む】彼女への淡い憧憬…これは決して口にしてはいけない。というよりも、本当の人間ではない自分には越えてはいけない一線だ。

其の参

[四]

「イ、イイ報セ?」

「そうさ、いい報せさ。実はね君、テレビに出てみないか?」

伊藤医師は飄々としていた。骸骨は何も応えなかった。ただ怪訝な顔をしていた。

「そうすれば、もうコソコソしないで済むんだ。僕がね、その労を取ろう、知り合いにテレビ局のディレクターがいるんだ。それと、あとは学会にもつき合ってもらうかな」

どうしてそんなことを言うのか解らなかった。それで黙ったまま彼の顔を見つめていた。

「いいかい、君は現に生きているんだ。恐がることはない」

そう言うとお猪口で一口含んだ。

「デ、デモ、小生ハココデ満足シテイマス、皆イイ人達ダシ‥‥」

「正体を隠してかい?」

伊藤医師はぎらりと目を光らせた。

「いつまでそれで続くと思っているんだ。何なら僕からこの家の人に話そうか?」

そのことばに骸骨は硬直した。伊藤医師はそれを見逃さなかった。

「いいかい、これは君のためでもあるんだ、僕はここで二三日のんびりするつもりだ、その間にゆっくりと考えるんだな」

彼の語気には有無を言わせぬ力が籠もっていた。