【前回の記事を読む】「満足?正体を隠してかい? …いつまでそれが続くと思っているんだ。何なら僕からこの家の人に話そうか?」そのことばに硬直した。
其の参
[四]
骸骨はまるで糸で操られたかのようにすっと立ち上がった。そして何も言わずにその場を立ち去った。頭に棒か何かで殴られたような衝撃が走った。くらくらと眩暈がした。
「眠ラナイ、疲レナイ、腹モ減ラナイ‥‥ソシテ喉モ渇カナイ」
そんなことばを呪文のように繰り返し呟いていた。これで生きていると言えるのだろうか。
どこへ行っても、誰と出会っても結局はこうなる。人を驚かせ、怖がらせ、嫌悪させてしまう。異形のものは人前に出てはならないのだろうか、この世にいてはいけないのだろうか。人の中へ入るのは赦されないのだろうか。
和美の強張った表情が目に浮かんだ。「ウソつき」という声が脳裡に響き渡った。嘘は少しもついていないつもりだった。ただ黙っていただけだった。でもそれは結局同じことだったのかも知れない。
相手の弱いところにつけこんでいたのと同じことだったのだ。それはまさに卑怯な行為に相違ない。あの男の言うとおりだった。骸骨はうなだれてしまった。
「モウ余リ時間ガナイノニ‥‥」
思わずそう呟いていた。今まで一つ所に一月以上いた例がないのだ。
あの男が現れてそれが一層現実味を帯びてきた。でもこの分では何も出来ないまま立ち去ることになりそうだった。それが、それだけが気がかりだった。骸骨はあらぬ所を見つめてため息をついた。