其の参
[一]
骸骨の空想は続いた。仮にお金を払ってやってもらったとする。それで警察にはどう報告するのだろう。老教授はハゲ頭をハンカチで拭き拭き、「実はあれで、その、生きていましたので、ですからその‥‥死体という訳ではありません」云々。
老教授のしどろもどろに説明する様子が、目に浮かぶかのように思われた。骸骨はむくりと起き上がると、あらぬ所を見つめた。松鳴りがして涼しい風が渡ってきた。
「フム、これがショウトウというモノか」
あれは難しい漢字を書くのだと呟いて、暫らく思案顔になった。だが次いでニヤリとして、どうやら文字が浮かばなかったらしい。
「イヤ、今はソレどころジャナイ」
骸骨は辺りをうろうろし始め、いつの間にか独り芝居の様相を呈してきた。
もしかすると警官がどやどやとやって来て、取り調べを受けることになるのではなかろうか。暗い部屋に座らせられてライトを当てられるのだ。刑事も怖いものだから、あるいは興味から三四人は中へ入るのだろう。そして目を丸くして自分たちの一問一答に耳を欹てることになるのだ。
多分訊問は一番年嵩のゴマ塩頭のデカ長が担当するはずだ。そのデカ長は初め当惑した表情で、次いで長年の経験で培った睨みの効く目でこう切り出すのだ。
「ふむ、まず君の名を訊こうか」
「アリマセン、早ク付ケヨウト考エテイタノデスガ、ツイソノ‥‥」
豊河悦司と名乗るのは公の場では不謹慎だった。