「で、職業は?」
「先日マデハ理科用ノ標本ヲシテオリマシタガ、アレハ辛イ稼業デスノデ、東京ヘ出テ来タ次第デシテ‥‥」
「ホウ、デ君ノ住所ハ?」
何だかデカ長までが釣られて硬い口調になり、それに気づいてコホンと咳払いをする。
「今ノ処決マッテオリマセン。先日マデハ或ル人ノ御厄介ニナリ、信州ニイマシタガ‥‥」
骸骨はここでちょっと声を落とす。
「逃ゲラレマシタ。ソレデ行ク当テモナイシ、一層死ノウカナ、ナンテ思ッテ、ソノ、山ノ中デフテ寝ヲシテイマシタラ‥‥」
「何でそんな人騒がせなことをしたんだ。し、死体でもないくせに、白骨で山中に寝転がっているとは、怪しからんじゃないか」
デカ長が話を遮った。何だか激高してきたらしい。
「住所不定、無職、おまけに名前もない、しかもだよ君、指紋までないとなると君‥‥」
ここでちらりと白骨の指先を見つめる。
「全くのならず者じゃないか」
デカ長は傍らのコップで喉を湿すとさらに続ける。
「真面目な人間は決まった所にいて、キチンと仕事をして、妻女をもらってだ‥‥」
ふと何だか妙な顔をした。
「で、君は一体いくつなんだ?」
「サア‥‥何歳トイウコトニ致シマショウカ?」
「いい加減にしろ、本官をおちょくっとるのか!」
デカ長はドンと机を叩き、皆がドッと哄笑するはずだ。そんな様子を想像して骸骨はくすくす笑い出した。
一方物陰の人はぴょこんと跳び上がった。目はいよいよ見開かれ、目の前の光景に釘づけとなった。