其の参
[二]
骸骨はおずおずと肩に右腕を回した。間近に少女の顔が迫り、しなやかな感触が腕に伝わってきた。何だかいい香りがして、頭の中で早鐘が鳴った。骸骨は目を瞑るとエイッとばかりにその肩を押し出した。
「きゃっ」
小さな悲鳴が上がり少女は前へつんのめった。周章てた骸骨は左手で支えようとしたのだが、宙に差し伸べられた彼女の腕の下に滑りこむ形となってしまった。腕が胸のふくらみに触れ、一瞬ドキッとした。だが何とか転倒だけは避けられたと思った。
ところが次の瞬間身体中の関節がめりめりと音を立てたのである。そして少女を抱きかかえたまま、ふらふらと藪の中へ泳ぎ出した。彼女が思いのほか重かったのだ、いや骸骨が軽過ぎたというべきなのだろう。
ほんの数メートル先の崖の縁に行こうとするのだが、勢いづいた身体は止まらない。ガサゴソと草々を踏みしだく音がして、まるでわざとのように薮の中を入ったり来たりする。少女は目が回りそうになった。
骸骨が右へ寄ったり、左へ傾いたり、あまつさえ頭を真っ逆さまに地面に叩きつけそうになったりするので、思わずきゅっと抱きついた。それが相手を逆上させてしまった。そして、「キェーッ」というような奇声を発すると、ガサガサと薮の中で尻餅をついてしまったのである。
二人はすっぽりと薮の中に隠れてしまった。少女は腕といわず脚といわず身体中が葉っぱだらけになってしまった。
「何やってんのよう、まったくぅ」