「ねぇ、こうしない? 二十五歳でどうかしら。その方が夢もあるしぃ、ステキでしょ」
何ということを言い出すのだろう、それでは年齢詐称ではないか。骸骨は目を丸くしたが、相手はにこにこ笑っている。
「ウン、少時無理ガアルケド、マァ‥‥イイカ」
「じゃあ、決定ね」
そう言ってまた二人は笑い出した。
昼下がりの岬は浮き世離れして、まるでよその国のようだった。風に誘われて遠く海を見渡すと、遥か沖合には白い船がまるで止まっているかのように浮いていた。松林のそよぎの向こうはきらきらと輝く海だった。こうして二人の夏が始まった。
ちょうどその頃和美を心配した姉の洋子が小径へやって来て、怪しげな男を発見した。彼女は思わず木陰に隠れて男の様子を窺った。折しも和美があの骸骨に手を引かれ、楽し気にこちらへやって来るところだった。一方その男は目立たない服装をして、木陰で二人の方へビデオカメラを向けている。
彼女の頭は混乱した。釘を刺して置いたのに妹があの骸骨と会っていて、さらにそれをビデオに収めている別の男がいるのである。
人見知りの激しい妹が楽し気に接しているところを見ると、取りあえずビデオの男が気がかりだった。無論あの骸骨も放っては置けないが、まずは何故妹にカメラを向けるのか突き止めなければならなかった。何も知らない二人は彼女と男の脇を通り抜けて家の方へ去っていった。
一方ビデオの男はカメラを納めると、鼻歌を口ずさみながら、旅館とは反対の方へガサゴソと薮を漕いでいく。彼女は一瞬父親に報せようとか思ったのだが、そんな暇はなかった。男の向かう方向に白い車が見えていたのである。彼女は急いで家に戻ると車に乗りこんだ。余程周章てていたらしく、途中で骸骨とすれ違ったのにも気がつかなかった。
【前回の記事を読む】骸骨は少女を信じたかった。すっかりいじけてしまった心で。人を信じるということは、疑うよりもずっと難しいことなのだということを知らないまま。
次回更新は1月31日(金)、11時の予定です。
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