【前回の記事を読む】「どの先生が、うちの子をこんなに変えてしまったのだろうか」——あまりの変わりように驚くとともに、親もつい笑ってしまい…

二 清水の爺ちゃん高校の先生になる

「知らないわよ。雑草(ざっそう)の名前なんて」

「おお、確か裏庭で見かけたことがあるなア」

と、いつも、子供の達郎とは話などしたこともない父親が、このごろ以前とは格段(かくだん)に明るくなった息子に、何の違和感(いわかん)も持たず答(こた)えた。

「ハキダメギクという草だよ。ハキダメとはゴミ捨て場のことでしょう。こんな、小っちゃくてきれいな花に、よくもこんな名前を付けるとは、牧野富太郎(まきのとみたろう)先生も意地悪(いじわる)だと清水先生は大笑いしていたよ」

「牧野富太郎先生とは、同じ学校の先生のことかい」

母が言った。

「アハハハ、参(まい)っちゃうナ。笑っちゃうよ。全く。何にも知らないんだなー。うちの母ちゃんは。教養(きょうよう)がないよ。牧野富太郎先生は、『日本の植物学の父』と呼ばれている昔の偉(えら)い先生のことだよ。学校の清水先生は、牧野富太郎先生の生まれ変わりなんだよ」

「そんなに偉(えら)い先生なのかい」

「それに、何でも知っているよ。あの先生は、難しい数学もお手のもんだよ。数学担当(たんとう)の先生よりも、分かりやすいんだよ。バカみたいな先生だけれども尊敬しているよ。不思議(ふしぎ)だよ」

妹の英子(えいこ)が、兄の変わりように嬉(うれ)しくなり、「お兄ちゃん、カッコいい」と冷(ひ)やかした。

「変わった、面白い先生がいるもんだ」と言いながらも、両親は我が子が良い方向に進んでいることに喜びを感じ、清水先生に感謝の気持ちが湧(わ)いて来るのだった。

また石田学(いしだまなぶ)という卒業生は、植物が好きになり造園業(ぞうえんぎょう) の会社に就職(しゅうしょく)した。

しかも、清水先生と同じように山野を駆(か)け巡(めぐ)り、カメラで山野草を写し、パソコンで四季(しき)の山野草を紹介する「移りゆく四季」というB4版の大きさの新聞を作り、造園会社の店頭(てんとう)に置いたところ、「面白い。ためになる」と大きな評判(ひょうばん)になった。

サラリーマンたちが、通勤電車(つうきんでんしゃ)の中で読んでいるようだった。何しろ、山野草の名前の由来(ゆらい)や生育地、薬草(やくそう)ならば、その効能(こうのう)まで解説として載(の)せたのである。かなり専門的なものであった。

その評判を嗅(か)ぎつけた大手新聞(おおてしんぶん)の記者によって、地方版(ちほうばん)に写真付きで記事が掲載(けいさい)された。