【前回の記事を読む】生徒が面白いと思う授業か、受験に役立つ授業か…。保護者からの苦情に校長が下した決断は…

二 清水の爺ちゃん高校の先生になる

子供たちの発想(はっそう)は豊かであり、清水先生が今まで考えたこともないことを、何の屈託(くったく)もなく質問した。清水先生は、子供たちが次に塾に来る時に必ず分かるように指導してやった。

電話でも質問内容に答えてやることも多かった。

「こんないい先生はいないよ」

子供だけではなく、保護者も大いに喜んだ。

やがて、評判(ひょうばん)が評判を呼び、塾生が急激(きゅうげき)に増え、塾長(じゅくちょう)も嬉しい悲鳴(ひめい)を上げた。

塾生(じゅくせい)たちは、今まで見向(みむ)きもしなかった空(あ)き地(ち)に生(は)えている雑草(ざっそう)に興味(きょうみ)を示(しめ)し、休みには清水先生と共に、高尾山(たかおさん)や御岳(みたけ)、奥多摩(おくたま)の山野にも行き、図鑑(ずかん)でしか見たことがない実物(じつぶつ)の野草に歓声(かんせい)を上げた。

「これが、イタドリか。あっ、ヒトリシズカが生えているぞ」

「いや、違う。二本の白い穂(ほ)のような花だからフタリシズカだよ」

「ああ、そうだったなあ」

「これが、ナガミヒナゲシだ。淡い赤色の美しい花だ。花の後にできる実には、砂(すな)のような小さな種が、一千~一千五百粒(つぶ)ほどもついている。凄(すご)く繁殖力(はんしょくりょく)があって一九六〇年代に世田谷区で発見された外来植物(がいらいしょくぶつ)だが、今や日本全国どこでも生えている。毒を持っているから油断(ゆだん)できないよ」

「ほら、ここにも外来植物だ。これは、タンポポに似ているけれどもタンポポではないよ。タンポポよりも、丈(たけ)が高いから区別ができる。『ブタナ』と言うんだよ。ヨーロッパでは、豚のサラダとも言うそうだ。葉や茎はサラダとして食べられます」

生き生きとして子供たちは語り、それぞれ、「野草博士(やそうはかせ)」となっていった。

地域(ちいき)の公立学校の児童(じどう)の中に、何人か野草博士(やそうはかせ)が誕生(たんじょう)した。それは決まって清水先生から野草のことを教わった子供たちであった。

こんな経歴(けいれき)の持(も)ち主(ぬし)が「清水の爺(じい)さん」だった。