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「正夫! また学校を休んだのか。まあ、心配するな。調子が悪い時には休んだほうがええぞ」

正夫は、清水の爺(じい)ちゃんだと知るとほっとした。年取(としと)ったお爺ちゃんであっても、年上(としうえ)という感じがしなかった。むしろ、自分と同じ子供のようにも感じた。正夫は、自然にため口で話した。秋田の田舎(いなか)にいる自分の同級生(どうきゅうせい)のような気安(きやす)さを感じさせた。

「ああ、爺ちゃんか。どうも学校に行く気がしないんだよ。この白い花を見ているんだよ」

正夫は、学校が嫌(きら)いなわけではなかった。でも、学校に行こうとすると急に咳(せき)が出て、体がだるくなり、熱っぽくなり何もする気がしなくなるのだった。

両親は心配した。我が子には自分たちと同じような肉体労働(にくたいろうどう)で一生(いっしょう)を終えてもらいたくないと思っていた。少しは、普通に勉強させ、普通の職業に就(つ)かせたいと考えていた。心配のあまり、近所のクリニックで診(み)てもらった。

結果は、

「正夫君はアレルギー体質(たいしつ)で、気管支喘息(きかんしぜんそく)の持病 (じびょう)があるわけですが、それほどひどいものではない。肉体的には何ら問題なく、精神的な原因が大きいと思う。

大人だったら向精神薬(こうせいしんやく)を処方(しょほう)するんだが、子供だからもう少し様子を見たほうがよい。体調(たいちょう)が良くないときには学校は無理(むり)しなくともよいのではないか」

とのことだった。

「お前のお母チャンから聞いているけれども、体が弱く気も弱いそうだが、困(こま)ることはない。心配するな。その弱いところを治(なお)せばいいだけのことだ」

「どうやって治せばいいの、爺ちゃん」

「ほら、学校で教わったことがあるだろう。『健全(けんぜん)なる精神(せいしん)は、健全なる肉体(にくたい)に宿(やど)る』とな。これは古代ローマの詩人の名言(めいげん)なのだが、近代オリンピックの父と言われた、フランスのクーベルタン男爵(だんしゃく)が盛んに引用(いんよう)し世に知らしめた言葉だ。まずは健全なる肉体を作ることだ」と爺ちゃんは言い、

「正夫、学校を休むということは、勉強が遅れ、学力が付かないだけではない。ほかの子供よりも運動量(うんどうりょう)が圧倒的(あっとうてき)に少なくなり、体力も衰(おとろ)えることでもあるんだよ。考えてごらん。学校と自宅との往復(おうふく)、休み時間の校庭での遊び、体育の授業での運動、どれをとっても正夫の運動量は少ない。勉強はこの爺さんと勉強すればいい」

「ええっ、ほんとう。爺ちゃんは、勉強ができるの」

母から、爺ちゃんは高校の元(もと)先生で今も塾教師(じゅくきょうし)をしているということは聞いたことがあるが、正夫には、とてもシワシワで白髪(しらが)だらけの子供のような爺ちゃんが勉強を教えることができるとは思えなかった。

次回更新は2月18日(水)、11時の予定です。

 

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