【前回の記事を読む】休日に「私は留守番」と言う妻に違和感…帰ってくると、家が酒臭い。家中調べると、大量の酒瓶が出てきて…

人生を失い、それでも女は這い上がれるか

治美

治美は、ぽっちゃりしていて、愛くるしい目が印象的な三十六歳。背が低めでもあるせいか、年より四、五歳は若く見える。彼女はアルコール依存とあわせて、エステ依存もあった。

恵子はエステ体験がなく、どんなところなのか、想像もつかなかった。「一度行ったら、ハマるよ~」と治美はいう。「顔とか体のマッサージするの?」と恵子が聞く。

「コースはいろいろ。美顔もあるし、お腹とかの脂肪もみ出しとかね。お値段もそれによって違うの。全身きれ~いにしてもらおうと思えば一回で二万も三万もかかる。

だけど、気持ちいいのよね~。お姫さまみたいに扱ってくれるの! もうそれが最高! ふだんあんな風に大切に扱われることなんかないじゃない? だから、ハマっちゃうのよね~。

三百万は使ったかな? いま思うと恐ろしい話だよね。きれいになって出かける先があるわけでもないんだし、見せる誰かがいるわけでもないでしょ。丸々損した、エステ店をもうけさせたってことだよね」

治美の口調が明るいので、その感じで聞いていたら、三百万ドブに捨てたようなものというオチで、恵子は驚いた。

治美は、娘の愛美(まなみ)が小学校に上がったのを機に、週四日、午前中、近くのドラッグストアでパートを始めた。それ以前は、「二人目がほしい」と妊活して、ヨガ教室に行ったり、鍼や漢方を試したりしていたという。検査では夫婦とも異常なしだった。

「結局、ご縁がなかったのかな。そう思うしかなかった。一人っ子でも性格のいい子はいくらでもいるって夫婦で話してあきらめたの。妊活にも疲れたしね」。そう語るときはさすがに寂しそうだった。

パートの仕事はけっこうきつかった。品出しとレジ。店長は治美より一つ下の女性で、厳しい人だったという。品物の並べ方が少しでも乱雑だと、裏の控え室に呼ばれて注意され、やり直させられた。

治美はがんばった。近所のパートの中では一番時給がよかった。夫のボーナスは半分は家のローンにあてるし、家族旅行にも行きたいから、将来の愛美の大学進学を考えての貯金は、治美がパートでがんばるしかなかった。

仕事の内容も嫌いではなかった。自分自身が消費者でもあるので、その気持ちになって、心を込めて仕事をした。だが、そんな努力など、認められることもない。指示通りにやって当たり前。できなければパートの代わりはいくらでもいる、そんな店長の態度だった。

正社員は店長とあと一人。広いドラッグストアを、それ以外はパートで回していた。学生は、夕方から夜働く人が多かった。店長は、そのたくさんのパートたちのシフトをうまく組んで、店が回るようにする。

だから、ひとりが期待する一人前の仕事をしてくれないと困るのだ。店長自身、いったいいつ休んでいるのかわからないほど、いつも店にいて、かなりの過労状態だろうと推察された。