【前回記事を読む】デイサービスの先生は利用者相手に将棋で勝つことをやめなかった。「認知症相手に、酷い男」その利用者は来なくなってしまい…

第1章    利用者さんとずっと一緒

どうしたのその目

上田は、デイサービスにやってきた中村さんの目の周りに、大きなクマができ、内出血している事に気づきました。中村さんは90歳を超えたばかりの女性です。

「服部さん、中村さんの目の周りにクマができているの、病院へ連れていこうか」

「そうね、家族にも病院に受診するよう伝えてみるわ」

服部は受診する前に何があったのか、経緯を聞こうと中村さんに尋ねました。

「中村さん、目の周りにクマができているよ。どうしたの」

「最近足が悪くて部屋で転んだのよ。足の後ろもけがして痛いの」

よく見るとふくらはぎにも大きな内出血がありました。中村さんは最近よく転んでけがをするようです。しかし施設で転倒するのを見た人はいません。

「でもいつもの事だから1、2週間もすればよくなるわ。病院へ行かなくても大丈夫よ」

服部は、何かしっくりしないものがあったので家族に連絡しました。息子のお嫁さんが電話に出たので、

「目の周りにけがをしているようなので、病院に連れていこうかと思うのですが」と伝えると、「今朝部屋で転んだらしいの。本人もすぐ治る、と言っているからデイサービスで様子見て」本人も家族も受診を拒否したら病院へ連れていく事はできません。

服部は今日の午後、かかりつけのタカシ先生が施設に来るので、その時相談する事にしました。

中村さんを診察したタカシ先生は、

「おかしいな、転倒して目のくぼんだところを打ったり、ふくらはぎをけがする事はあまりないんだけど」

「でも最近同じようなところをけがしているみたいです。そういえば内出血は多いけど、実際出血しているのを見た事はあまりないですね。まさかという事もあるから、ケアマネに何か情報持っていないか尋ねます」

服部はケアマネの大江を呼び出し、

「中村さんけがをしているけど、最近何か変わった事ない?」

「本人には誰にも言わないで、と言われているんだけど。実は息子さんによく怒られているらしいんだ。この前も怒鳴られたらしい」