「あなた、なぜそんな大事な事を黙っているの」

「だって誰にも言わないで、と言われているから」

「命に関わる事かもしれないじゃないの。こんな時には私やタカシ先生には報告して」

大江は介護出身のケアマネージャーのため、中村さんの身に危険が迫っている事を理解できなかったようです。

「タカシ先生、きっと息子さんが虐待をしていると思います。どうしましょう」

「社会的入院を受け入れてくれる病院を探して、いったん息子さんから離そう。その後施設を探したらどうだろうか」

その後中村さんは無事入院し、近隣の施設に入所となりました。

入所後息子さんが施設に挨拶に来ました。大江は自分が怒られると思い他の部屋に閉じこもってしまいました。

「服部さん、今回は母がお世話になりました。もしあのまま家で介護を続けていたら、母を殺していたかもしれません。施設に入所させてもらって実はホッとしています」

家族が介護に追いつめられている事は、施設の管理者をしている服部には痛いほど理解できます。息子さんもつらかったのだろうと思います。高齢者が自宅にいたい気持ちはよくわかりますが、自宅にいる事だけが幸せではありません。今回は大事にいたらなくて幸いでした。

でもこれでこちらの施設の利用者さんが一人減りました。

「あー、また減収ね。理事長に怒られるわ」