【前回記事を読む】「先生、早く死なせてください」「今日は血圧が高い…MRI予約しておきますね」「…先生、私死んだりしませんよね」(…え?)

第1章 利用者さんとずっと一緒

老老介護は危険がいっぱい

坂内さんの奥さんは、脳梗塞と糖尿病でタカシ先生の往診を受けておられる患者さんです。

近鉄沿線の昔風の二階建て長屋に夫婦で住んでいます。長屋ですので隣の家とは離れておらず、壁一枚でつながっています。奥さんは半身まひがあり、体が不自由なため1階で暮らし、旦那さんは2階で暮らしています。

週三日ヘルパーが訪問介護に入り奥さんの食事を作り、週二日近くのデイサービスで、入浴サービスと食事サービスを受けています。残り二日は、旦那さんが奥さんの食事を作りトイレ介助もしていました。

二人とも80歳は超えています。さすがに旦那さんも奥さんの介護は辛そうです。若い時は二人で小さな居酒屋をしていたため、二人とも少ない国民年金を受け取っているだけです。

施設に入るほどのお金は持っていません。一人娘は結婚せず、近くのスーパーでパートをしています。自宅にお金を入れる余裕はありません。

タカシ先生と服部は、月2回の往診をしていました。ベッドの横にはタバコの吸い殻が空き缶の中に無造作に捨ててあり、電気ストーブはなく、灯油ストーブを使用していました。

服部はいつも、タバコは火事になるのであぶない。禁煙してください。灯油ストーブは電気ストーブに変えてください、と坂内さん夫婦に口を酸っぱくして注意していました。奥さんは、タバコは一日に数本しか吸わないから火事にならない、まだボケていないから灯油ストーブで良い、と取りつく島もありません。

ある冬の寒い日に、奥さんのベッドの布団がストーブに接触し、瞬く間に火が広がりました。

火事場の馬鹿力とはうまくいったもので、奥さんは不自由な体で何とか外に出て一命をとりとめました。旦那さんは2階でお酒を飲んで寝込んでしまっていたため、逃げ遅れ焼死してしまいました。

火の勢いは強く長屋もすべて火の海になり、幸い隣人には死者は出ませんでしたが、皆高齢で貧しい人ばかりです。寒空に身一つで投げ出されてしまいました。

年を取れば他人の忠告が耳に入りません。しかし無視した代償はとても大きい事があります。

他人に危害が及ぶかもしれない時は、年を取っても素直に人の話を聞き、できる事を少しでも改善したいものです。