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第1章 利用者さんとずっと一緒
貧すれば鈍する
吉本さんは78歳の女性で、タカシ先生のクリニックに通院している患者さんです。被差別部落出身のため、若い時激しい差別を受け、学校にも行けず、ほとんど教育を受けられませんでした。
現在は表立った差別は見られませんが、いまだに完全に消えたわけではありません。本人には何の責任もないのに、生まれた場所が被差別部落というだけで差別される、信じられない悪弊です。
もしこのような差別がなければ、多くの人達が地域に閉じこもらず、才能を磨き社会で存分に活躍し、もっと明るい未来があったのでは、と思わずにはいられません。
吉本さんは学校にもろくに行けなかったため、読み書き算数などの生活するうえで絶対必要な事ができません。文字を読んだり書いたりできないので、普通の仕事はできません。
生活保護を受けながら、奈良公園の掃除をして生活してきました。長い間の保護生活で、お金をもらうという事が当たり前になり、自ら努力をして生きていく事ができなくなりました。
周りにも同じような境遇の人達がいて、いつもどうしたらお金をもらえるか皆で話し合っています。このような状況になると、何が真実で何が間違っているか、という簡単で当たり前の事がわからなくなります。
ある日、吉本さんがタカシ先生に介護認定を受けたい、と言って受診されました。聞けば腰や足が痛いし、家でじっとしているのも退屈なので、デイサービスを受けたいとの事でした。
タカシ先生は、服部に介護認定を受けさせる手配を頼みました。服部は大江に書類を準備させ、認定調査の日取りを決め、当日になりました。
吉本さんは高い介護度を得ようと、必死に調査員に自分の病気を訴えます。
しかし結果は最も軽い要支援1でした。それでも限度額は4万円ぐらいになります。この限度額は、介護サービスをこの金額まで受ける事ができるという基準額です。
吉本さんは何を勘違いしたのか、おそらく知り合いに間違った情報を吹き込まれたのでしょう。毎月介護サービスを受ければ、この金額を自分がもらえると勘違いして、必死に認定調査を受けたものと思われます。
大江から、お金は吉本さんがもらうのではなく、サービスを提供した施設に入る、と説明を受け落胆し、なぜか憤慨し介護サービスを拒否したのです。
こんな当たり前の事が理解できず、自分がお金をもらえると考えるのは、やはり長い間の保護生活によって感覚がまひした結果でしょう。
貧すれば鈍する、本人達が悪いわけではありません。人間が他人に対する優越感を持ちたいがためこのような差別社会を容認してきた、この事が問題の根源です。