【前回の記事を読む】学生時代に妊娠させてしまった彼女に謝りたい。彼女の居場所を探していると「その子の家、行ったことあるよ」と元同級生が…

第四章

夏の日差しが容赦なく降り注ぐ。いつもこうやって僕の体力を奪うのだ。すぐに日陰があるわけではない。涼しい場所があるわけでもない。

乾いた喉を潤したくてもコンビニなどそう簡単に見つからない。東京とは違うのだ。僕を迎え入れてくれる太陽に感謝しながら歩を進める。

駅から歩いて十五分くらい経っただろうか。そろそろ夏の暑さに身体が堪え始めていた頃、僕の背に一つの声が振り掛けられた。

「野上?」

野太い声だ。振り返ると、そこには見覚えのある男が立っていた。歳は四十歳半ばくらいで、声同様に腹が出ている髭面の背の低い男。ジャージを着ていなかったら、僕は思い出せなかったかもしれない。間違いない。高校三年生のときの担任、谷岡(たにおか)先生だ。

「谷岡先生?」

谷岡先生はゆっくりと近づいてきた。

「懐かしいな。野上じゃないか! 元気してたか?いやあ、本当懐かしいよ」

谷岡先生は、本当に嬉しそうに僕の背中をバシバシと叩く。この感じをよく覚えている。

谷岡先生は嬉しいことや生徒を褒めたいときなど、よく背中を叩いていた。この背中を叩かれるときに感じるごつごつとした硬い手は、僕をすんなりとあの頃に戻してくれた。

「元気でした。いろいろあって、こっちにはなかなか戻ってこれなかったんですけど」

「そうかそうか。いや、いいんだよ。生徒が元気ならそれだけで嬉しい。今は大学生か?」

「はい。東京の大学に通ってます」

「そうか! 東京か! こっちとは全然雰囲気が違うからな。道迷ったりしてないかー?」

谷岡先生は冗談っぽく笑いながら言う。こういう生徒相手にも対等に話そうとしてくれるのが、この人の特徴だ。みんな、谷岡先生が好きだった。

「ずっと戻ってなかったのに、急にどうしたんだよ。なにかあったのか?」

谷岡先生は笑っていたと思ったら、今度は心配そうに訊ねる。

「いえ……、ちょっと調べたいことがあって、一瞬だけ戻ったって感じです」

知り合いに会う対策はしていなかった。小さな田舎町だから、こういうこともあるかもしれないと考えておくべきだった。実際には、ほんの少しだけ危惧したのだが、今の僕を見て、昔の僕を思い浮かべる人はいないだろうと、たかを括っていたのが失敗だった。

当然ながら、僕は咄嗟に嘘がつけず、より谷岡先生の興味を惹く話し方になってしまった。この辺りで退散しないと、後々とんでもなく気まずい空気が流れる気がする。

「なんだ、調べたいことって。先生でよければ、力になるぞ」

「いや、大丈夫です。ありがとうございます」

それでも谷岡先生は引き下がらなかった。どうしたどうしたと訊ねるばかりで、僕を解放しよういう素ぶりは一切見せない。

久々に当時の生徒に会えたことが相当嬉しいのかもしれないが、距離感を間違えている。