【前回の記事を読む】「この後なにもない?」「……ないよ」彼女の答えを聞いて決心がついた——「恥ずかしいけど、ちゃんと言うよ。」
第五章
彼女はわかってくれるだろうか。受け入れてくれるだろうか。認めてくれるだろうか。僕は今日彼女に会って、仲直りができたら、彼女にずっと言えなかったことを言おうと思っている。
そして今、その瞬間が目の前にある。でも、前園さんがそれを受け止められなかったら? 僕はまた一人になってしまうんだろうか。せっかく仲直りしたのに……。
前までの僕なら、そうやってネガティブな思考回路に陥っていたと思う。でも、友達だし、相談に乗ってくれた。そんな彼女に本当の僕を告げないままでいいのだろうか。
もちろん、友達相手に隠すことだってあるだろうけど、今の僕は話したい。彼女が僕のためにアドバイスまでくれたのだ。話さなきゃいけない気がする。
「あのさ」
アイスコーヒーをストローで飲んでいた前園さんは、慌てて口から離す。
「どうしたの?」
「前園さんに言わなきゃいけないことがあるんだ」
前園さんは不思議がるような表情で、座っている椅子に深く腰掛ける。
「言わなきゃいけないこと?」
「うん。前園さんは僕になんでも話してくれたよね。進みたい業界のこと、好きなカフェのこと、しているアルバイトのこと、そのお店。でも、僕はまだなにも前園さんに話していない。
話さなきゃいけないのに、ずっと逃げてきた。アドバイスまでくれたのに、深く聞かないでくれてありがとう。前園さんが僕を友達だと思って自分のことを話してくれたのと同じように、僕も前園さんに自分の話をするよ」
「え? ああ、いいよ。話したくないのに、わざわざ聞こうだなんて思わないよ」
前園さんは慌てたように、両手を上げて制する。
「いや、僕が話したいんだ。僕が、前園さんに友達として向き合いたいんだ」
前園さんは、少し驚いた表情をすると、「そう。そっか」と言ったきり黙った。
深く深呼吸をして息を整える。前園さんが僕から離れていくかもしれない。そんな想像に身が震えそうにもなるが、これが僕なりに、相手に敬意を示した友達としての向き合い方だ。
「この前会いに行った子、僕が高校生のときに付き合っていた子なんだ」
前園さんは特別驚いた表情を見せることもなく、「そうなんだ」と言ったきり、黙ってこちらを見ているので、そのまま話を続けた。
「僕はサッカー部に所属していたんだけど、試合中に怪我をして、最後の試合前に引退したんだ。毎日なにもすることがなく、退屈な毎日を過ごしていたんだけど、ある日僕は遥香というクラスメイトと出会ったんだ。遥香はつまらない僕の毎日を楽しくさせてくれるような、他の子にはないなにかを持っていた。僕は自然と惹かれて、それで告白して付き合ったんだ」
なお、前園さんは黙って聞いていた。時折、うんうんと頷きながら、僕の話に耳を傾けてくれている。きっと、彼女はちゃんと受け止めてくれるに違いない。彼女の態度を見ながら、自然とそんな不確かな確信が芽生えていた。
そうして、僕はずっと隠していたことを初めて人に話した。
「僕と遥香の間に子供ができたんだ」
「……え?」