ずっと黙って聞いていた前園さんの目が大きく見開かれた。まさに驚愕しているという言葉が似合うような表情で、しばらく放心状態になった後、
「子供?」
と、彼女は訊き返した。
「うん」
「……それ、本当なの?」
「うん。本当」
前園さんはたしかに、「そうなんだ」と言ったものの、まだ信じられない様子でいる。
墓場まで持っていこうと思っていたのに、まさか今日話すことになるなんて、三年前の僕はおろか、数日前の僕だって思ってもみなかっただろう。
「ごめん、驚かせて」
「いや……、全然」
前園さんはアイスコーヒーに手を伸ばし、ゆっくり飲んでまたテーブルに戻す。その動作を三回繰り返した。その間、彼女の呼吸は止まっているようだった。息の音が聞こえないのだ。
「ごめん、びっくりしちゃった」
何分そうしたか、ゆっくりと前園さんの方から口を開いた。僕もアイスコーヒーを飲んだ。口の中だけでなく、喉の奥、いやもっと、身体の奥の奥の方からずっと乾いているような感覚だ。
「びっくりするよね」
「子供は?」
「彼女の母親から堕胎するって言われた」
「そうなんだ」
「僕はずっと自分勝手な人間だよ。自分の過去の出来事から目を背けて、自分が悪かったのに、他人と関わらないようにして、心を開いてくれた前園さんにも、僕はできる限り隠そうとした」
「それは違うよ」
前園さんはぴしゃりと言う。これまでどこか気を遣って言葉を探していた彼女とは違う、自信を持って断言するような言い方だ。
「それは違うよ」今度は僕の目をまっすぐに見て言う。
「違うって、どういうこと?」
「みんな、一つや二つ、隠したい過去なんてあるもんだよ。でも、優くんは私と友達といたいがために、ずっと人に言わずにきた秘密を打ち明けてくれたんだよね。ありがとう」
心から感謝するというふうでもなく、でも悪だくみをしているふうでもなく、ただ優しく困ったような表情でいる。
「もう優くんは、臆病な男じゃないね」
「そうかな」
「そうだよ」
次回更新は5月19日(火)、11時の予定です。