【前回の記事を読む】冷たく震える手を抑えながらスマホを取り出し、彼女に電話をかける…もうダメかなと思ったそのとき――
第五章
そのカフェは駅から徒歩七分ほどの距離にあった。地図アプリを頼りに向かうと、焦げ茶色に塗装された木造の二階建ての店があり、前園さんはその軒先に佇んでいた。
「ごめん、お待たせ」
前園さんに駆け寄り、声をかける。彼女は俯いたまま「うん」とだけ言った。暗い顔だが、怒っているような表情ではない。
「中、入ろう」
前園さんは扉を開けて、店の中に僕を入れた。
「いらっしゃいませ」
五十歳くらいのダンディな男性が声をかけるのと同時に、数人の大学生風の店員が口々に「いらっしゃいませ」と言う。
外観よりは少し明るい茶色い木目調の壁で統一された店内は、たしかに自然を感じさせる仕様が目立った。二階建ての店内の中央には木製の螺旋階段が設置されており、観葉植物も相まって、カフェといえど、まるで小さなテーマパークのようだ。
田舎の自然の中に建てられた秘密基地のような感じがして、どこか懐かしさを覚える。店内には深いコーヒーの香りが漂っており、味にも期待ができる。
ダンディな男性は前園さんに目配せをすると、こちらを見てにっこりと微笑む。彼が店長なのだろうか。前園さんはそれに応えるように会釈をして、僕を一階の窓際の陽がよく当たる席に誘導した。
「なに飲む?」
席に座るなり、前園さんは目を合わせずに訊ねる。
「アイスコーヒーで」
彼女は近くにいた女性の店員に素早く注文を済ませた。店員が敬語を使っているので、前園さんの後輩なのだろう。
「ごめん、急に。この後なにもない?」
「ないよ」
「そっか。会ってくれてありがとう」
「いいえ」
当然だが、いつもと比べてかなりローテンションだ。ただ、やはり電話のときと同様、怒りよりも困惑が勝っているように見える。
「この前のことを、ちゃんと話したくて―」