【前回の記事を読む】妹の就職先で起きた、ある事件をきっかけに…教育者だった両親は心中を図り、妹と私の“地獄”が始まった。
サイコ5――テレポート怪盗
「黒豆パン買ってきたからお姉ちゃんにもあげようと思ってここに向かってたら、変な電話がかかってきたからうそ電話詐欺だと思ってすぐ切ったのよ。まさか本当に警視庁の刑事が来ているなんて思わなかった」
そう言って皆実は玄関に上がると姉に袋を手渡した。
「皆実、大丈夫?」
「大丈夫よ。私も最近になってあの時のことを思い出してたの。あれは一体何だったんだろうと思って。今までずっと過去から逃げてきたけど、それじゃ、ずっと昔の苦しいままの私なの。
いい加減過去と向き合って新しい人生に踏み出したい。刑事さんが何を知りたがっているのか分からないけど、私が知っていることは全部お話しします」
鍬下は悦子に家にあげてもらい、リビングのソファに座って皆実の話を聞いた。
「あんな山奥なので研究所には住み込みで働くことになりました。私は両親と仲が悪く、すぐにでも家を出たかったのでちょうどよかったんです。でも行ってみたら、所長以外の職員は私だけと知ってびっくりしました。
その時、研究所には奇跡の少女として有名だった古葉月渚(こばるな)、西須悠雅、八重沢駿矢の3人がいました。後からさらに増えて6人になるんですが、初めはその3人だけだったんです。
私の仕事はその子供たちの日常のお世話をすることでした。料理を作ってあげたり、一緒に遊んであげたり、勉強は私も苦手だったので所長が教えていました。あと、悠雅がいつも夜泣きをするのでそんな時は眠るまで添い寝をしてあげることもしばしばでした。
私はそんなことでお金を貰えるのならこんな楽なことはないとあまり深く考えることはありませんでした。今から考えれば本当に馬鹿だったと思います。あの子たちがどうやって、そして何のためにそこに集められたのかよく考えれば、もっと早く誰かに相談することができたはずなのに。
子供たちはそれ以外の時間はほとんど実験室で実験をしていました。超能力の実験なんて心の奥では馬鹿にしていましたけど、その時の私にはお金さえ貰えればどうでもいいことでした。実際の実験は直接見たことはありません。
ただ子供たちが今日はサイコロやカードを当てられたと言って喜んだり、当てられなかったと言って悔しがったりしているのを聞いて、何だそんなことかと思っていました。でも今思えば、密室で幼い子供に長時間そんな実験を繰り返すなんて酷い虐待だと思います。
所長からは研究所で見聞きしたことは絶対に口外しないよう指示されていました。もし口外したら今までの給料は全額返還してもらうだけではなく、損害賠償を請求すると言われていましたが、両親と仲の悪かった私がそんなことを他人に話す心配は全くありませんでした。