【前回の記事を読む】飛行機事故で両親を失った少女…現場で発見された時、少女がしっかり手に握っていたのは、人間の形をした人形だった。
サイコ5――テレポート怪盗
「子供たちはどうなったんですか?」
「子供たちはすぐに警察が保護しましたから、その後どうなったか全員を知っているわけではありません。ただ、所長は月渚の里親になっていましたから、彼女は妻の小百合さんが自宅に引き取ったと聞きました」
「えっ? 神撰に拉致されたんじゃないんですか?」
「神撰? 何ですか、それ」
鍬下は何も信じられなくなっていた。皆実の言うことが真実だとすると、神撰という組織は賽子の作り話ということになる。だが、もしそうなら何故、麻利衣や小百合は賽子と同居していた期間があったことを黙っていたのだろうか?
「話を聞かせていただいてありがとうございます。最後にもう一つだけ質問していいですか? 古葉月渚はいつから河原賽子と名乗るようになったんですか?」
「河原賽子? あれ? どっかで聞いたことがあるような……思い出せないな。でも、少なくとも私が知る限り、彼女はずっと古葉月渚で、改名なんてしていませんでした」
「そうですか……ありがとうございました」
鍬下が礼を言って辞去しようとすると、後ろから皆実が声をかけた。
「あの……ひょっとして子供たちがどうかしたんですか?」
「詳しいことはお教えできませんが、西須悠雅がある事件に関与している可能性があります」
「悠雅が? 刑事さん、悠雅が何をしたか分かりませんけど、あの子は本当はすごく繊細で心の優しい子なんです。私はあの子たちには幸せになってほしいんです。悠雅のこと、どうかよろしくお願いします」
皆実は深々と頭を下げた。
「分かりました」
鍬下は会釈すると徳永家を辞去した。
5月21日、麻利衣と賽子は宝石展示会のために貸し切られたホテルの宴会場に来ていた。賽子は胸元に刺繍の入ったグレーの半袖ワンピースを身に着け、麻利衣は一張羅の黒のスーツを着ていた。
周囲は若者から年寄りまでおり、裕福な女性たちが高級なドレスやアクセサリーで着飾っており、麻利衣一人だけがその場にそぐわない人間に思われ浮足立ったが、彼女はこの際、賽子お嬢様に付き従うお供の役に徹しようと決め込んだ。
「すごい宝石ばかりですね」
麻利衣はガラスケースの中のきらきら輝く色とりどりの宝石たちを眺めながら溜息をついた。
「ピンク・ムーンはあそこだな」
賽子の視線の先には人の身長と同じくらいの黒い大理石でできた柱が広間の中央に立っており、その上のガラスケースの中に光を浴びて燦然と煌めくダイヤが飾られていた。
柱の周囲には近づけないようにポールパーテーションが設置されて、近くに2名の警備員も立っていたが、既に大勢の招待客がそこに寄り集まって、物珍しそうにダイヤを眺めていた。
二人がそちらに向かうと、千晶が笑顔で手を振りながら近づいてきた。
「麻利衣。賽子さんもいらしてたんですね」
「千晶も来てたの? そうか、千晶もセレブだもんね。ひょっとして結婚指輪を探しに来たの?」
「まさか。彩斗の給料じゃ、こんな高い宝石は手が届かないわよ。毎年、ママに招待状が来るんだけど、今年は行かないって言うから代わりに休みを取って来てみたの。あれが噂のピンク・ムーンでしょ。すごいわよね。近くに行って見てみましょう」
しかし、柱の周辺は人がごった返しで、なかなかダイヤには近づけなかった。するとすぐ前にいた坊主頭の男性が双眼鏡を取り出し、柱の周囲をぐるぐる回りながら念入りに観察を始めた。
男は1周すると、近くにいた白髪の老婦人に何かを囁いていた。しばらくすると展示会の責任者の遠藤という男がやって来て、老婦人に挨拶した。