【前回の記事を読む】「探さないでくれ」とだけ書かれた彼の手紙を見て、私は嗚咽した――家に帰ると、悲しい目をした父親が、私宛の督促状を持っていて……

花ことばを聞かせて

まるで昔の昭和時代に、戻ったような光景だった。キッチンにある電化製品の全てに、白い手編みのレースが掛けられ、部屋にある低いテーブルの下には、クッションではなく座布団が置いてあった。

棚の上には誰かの土産だろうか、こけしやら何かの置き物があって、A子の部屋に驚くほど似合っているのだ。

お茶を飲みA子と話すつもりが、何故か落ち着きがないA子、すると隣の部屋に行くA子は、おもむろにクローゼットを開け、中に掛かっていた何本かのネクタイを手に取り、「彼が置いていったままなの」と言った。

思わぬ展開に一瞬黙ってしまう由記子、A子は男の存在を知らせたつもりなのだろう。部屋の隅に畳んだ布団にも白いレースが、掛けてあるのを目にしながら、彼氏が居るとか居ないとか、どうでも良いと思う由記子に、忘れていた出来事を思い出させた。思い出した相手に比べたら、A子の行動など逆に可愛いと言うべきなのだろうか……。

その日の出来事は思うのも、腹が立つ事なのだ。引っ越したN子に言われ、彼女のアパートに行った時、女同志の話でもと思った矢先、一本の電話が鳴りN子が出た途端、顔を赤らめ態度が変わった。

慌てたように由記子に言ったのは、「悪いけど帰ってくれない? 今から彼氏が来るの」と由記子は何が起きたのか分からず、「えっ!」と言ったきり、不思議そうにN子を見ていたが、驚きの後に来る感情が、屈辱となってゆくのを覚えた。

唖然とする由記子に構う事もなく、慌ただしく湯を沸かすN子。すると湯が入った洗面器を床に置き、しゃがむと足を広げピチャピチャと音を出し、躰を洗うN子を台所のガラス越しに見たのだ。

それが終わると急に部屋を片付け始めるN子、そして背中を押されるように由記子は、N子の部屋から追い出されたのだ。

あからさまなN子の態度に、自分だったら絶対そんな事はしないと言い切る由記子には、理解などできないのだ。

一夜明けても怒りが収まらなかった由記子は、もう二度とN子と会う事はなかった。あの澄まし顔のA子なら、こんな時どうするのだろう。

やっぱり好きな男を選ぶのか、たとえN子の行動を軽蔑したとして、これが男と女の本音なら、由記子の方が間違っているのだ。

分からない疑問は誰かに聞くべきか、ただ由記子は済んだ事だと、本能が忘れる事を選んだようだ。

何故なら口では由記子に同意しながら、女の胸の中にあるN子を認め、そして気の毒だという哀みの顔を、由記子に向けるのを薄々知ったのだから……。

つまらない事を思い出す由記子は、毎日が憂鬱に思えてくるのを覚えた。昼間働けば好きな男性が見つかる、などと密かに期待した自分が居たのだ。

外でも職場でも声を掛け近寄るのは、何か含みの見える妻子持ちの男ばかりだと気づいた。由記子の何が悪いのか染み付いた色は消せないのか、いつもの冷めた顔で由記子は遠くを見ていた。