花ことばを聞かせて

色とりどりのネオンが綺麗だった。見飽きた煩い夜の新宿という場所ではなかった。

いくつかのネオンがキラキラと輝き、そして華やかに輝く光は、まるで夢の中に居るようで、そこから動けず立ちすくんでいた。

すると眩しい光が急に、顔に当たり目が開かないのか、今ここが夜なのか昼なのか分からなくなって全てが消えてゆくのか……。

あまりの眩しさに重い瞼を開けると、そこは自分の部屋ではないと、毛布を払いのけ慌ててソファから、起きた瞬間自分の身に何が、あったかを確認し異変がないと知るや、ようやく周りを見渡した。

何かを叩く音はキッチンからか、そしてテーブルに味噌汁を置くと、飲んだ方が良いよと勧める男に、逃げられない罰の悪さからか、じっと味噌汁を見つめ、観念したように消え入る声で女は「ありがとう」と言っていた。

今、目の前に居る童顔の男は、今風に街で女に声を掛けるタイプには見えず、酔い潰れた女を親切にも、ただ介抱しただけなのだと知った。何気に見た男の部屋は古い造りと二間の部屋に、小さすぎる台所が目に入った。

男は昼間工場で働き、夜は昨夜の店でアルバイトをしているらしい。女は男に何の興味もなく、そんな話をする男に嫌気が差した。「また会いたい」と男は粘るので、仕方なく誘いを受ける返事をして、ようやく我が家へと帰った。

「やっちゃった」と顔をしかめ、一言呟き熱いシャワーを躰に当てた。苦々しい思いを打ち消すように、躰の隅々まで洗う女は、流しても消える事のない事実が頭に浮かんだ。

光の当たらない雑居ビルの裏口から、ホステスと思われる女がフラリと出て来る。深夜の人混みの中、新宿の街を、駅へと向かう女は、既に終電もないのを、知っているのだろうか、店の客に勧められるまま飲んだ女の、火照った頬に冬の風が涼しげだった。

広い道に出た女は何をするでもなく、ふと立ち止まるのだ。すると黒い車が女の前で、ピタリと止まり車の窓から「この辺はタクシー止まらないですよ」と優しげに声を掛ける男に、女は本能で乗るべきかと、見極めるように男を見た。